学生が成功するための『心』と『環境』

今回の研究から明らかになった重要なメッセージは、「学生の心を支えること」と「その学生が受け入れられるための環境を整えること」、この2つがそろって初めて大学生活がうまくいきやすくなるということです。
この研究の大きな特徴は、「心理的サポートだけで十分」というわけではなく、学生たちが実際に「居場所を感じられる環境があるかどうか」という条件を考えた点にあります。
つまり、どんなに優れた心理プログラムであっても、学生が「自分の居場所はここにあるんだ」と安心できる土壌がなければ、その効果はほとんど発揮されないということです。
このことは、心理的なプログラムが効果を生むためには、「大学側がどのように学生を迎え入れ、サポートするのか」がとても重要だという意味を持っています。
たとえば大学にどれだけ豊富な授業や設備があっても、そこで学ぶ学生が「自分はここにいてもいいんだ」と感じられないままでは、学生は定着せず、心理的なサポートだけでは解決が難しくなります。
研究チームもこのことを重要なポイントとして強調しており、学生に本当に効果的なサポートを行うには、学生が自然に自分の居場所を感じられるような大学の文化や制度作りが欠かせないと述べています。
一方で、この研究はアメリカ国内の4年制大学を対象にしたものであるため、日本を含め他の国や文化でそのまま通用するかどうかはまだ分かりません。
実際、日本とアメリカでは大学生活の仕組みや学生支援の方法が大きく違います。
日本の大学では授業の進め方や学生生活のスタイルも異なるため、このプログラムが日本の大学でどのように効果を発揮するかは、さらに詳しい検証が必要になるでしょう。
それでも、この研究の方法や結果は、日本を含めて他の国の教育関係者や心理学者にとっても非常に参考になるでしょう。
特に、「心理的サポートと環境作りの両方を整える」というアイデアは、どの国や地域でも教育の現場を良くするための基本的な考え方として応用できる可能性が高いです。
また、この研究が提案した30分程度のオンラインプログラムの大きな強みは、手軽に低コストで実施できるという点にあります。
実際にアメリカやカナダの大学では、必要な手続きを済ませれば、このプログラムを無料で取り入れることができます。
この手軽さのおかげで、多くの大学が新入生のためのサポートの一環として簡単に導入することが可能なのです。
その結果として、多くの学生が「自分は孤独じゃない」と実感し、大学生活をスムーズに始められる可能性が高まります。
たとえ個人レベルでは効果が小さくても、多くの学生に広く実施すれば、毎年1万人以上の学生が途中で大学をやめることなく1年目を乗り越えられる可能性があるというデータも示されています。
さらに、この研究は単に効果的なツールを提供しただけでなく、教育界にとって非常に大きな意義を持つ発見をしたとも言えます。
それは、「学生が自分自身に自信を持ち、大学という新しい環境に適応するには、心理的サポートに加えて『受け入れられている』と感じられる仕組みを作る必要がある」ということを、数万人規模のしっかりとした科学的根拠をもって示したことです。
これまでの研究では、「心理的なサポートが重要だ」ということはよく言われてきましたが、「どのような環境で、どんな人にそのサポートが効果を発揮するか」という点まで明確に示した研究はあまりありませんでした。
この点で、今回の研究は教育や心理学の分野で画期的な成果と言えるでしょう。
最後にあえてまとめるなら、この研究が示しているのは「学生が本当に成功するためには、心に寄り添う支援と同時に、その心を受け止める環境を整えることが必要だ」という、シンプルながらも深い教育の本質なのかもしれません。
今回の発見をきっかけに、多くの学校や教育機関が、よりよい学生生活のための土壌を整えることに積極的に取り組んでくれることを願っています。