時代を超える『古典』の秘密とは何か

「本当に良い小説は、時代を超えて読み継がれる」とよく言われますが、皆さんはどう思いますか?
たしかに私たちは、古典と呼ばれる本が今でも人気を集めているのを目にしています。
夏目漱石やシェイクスピア、アガサ・クリスティーなど、何十年も何百年も昔の作品が、今なお多くの読者を惹きつけているのは驚きですよね。
ところが一方で、発売当時に爆発的にヒットしたベストセラー作品が、10年も経てば誰の記憶にも残っていない、そんなケースも珍しくありません。
実際のデータを見てみると、多くのベストセラー小説は、出版されてから10週間ほどでピークを迎え、その後は急速に忘れ去られてしまうことが多いそうです。
つまり、人気のピークを迎えた後、ゆっくりではなく、急な坂道を転げ落ちるようにして人々の関心から消えていくのです。
これまでにも「売れる本」を研究する試みは盛んでした。
例えば「どんな内容や物語が読者にウケるのか?」、「どういうキャラクターが登場すると読者が喜ぶのか?」といった「ヒットの方程式」を探してきました。
実際の研究でも、「愛情深い男性キャラクターが登場する小説ほど人気が出やすい傾向がある」といった、面白い結果も報告されています。
しかし、ここで大きな問題があるのです。
いくら内容やキャラクターが魅力的で、発売直後にヒットしたとしても、その小説が数十年、あるいは100年後も読まれるとは限らないのです。
実際、本の人気というのは単に内容だけではなく、その時代の流行や社会の動き、さらには表紙デザインや宣伝といったマーケティングの影響も強く受けます。
こうした要素が絡み合っているため、「この小説が時代を超えるかどうか」を内容や物語から予測することは、極めて難しい課題なのです。
もう少し身近な例で考えてみましょう。
例えば、皆さんが今、涙を流すほど感動した小説があったとします。
でも、それが数年後には誰も話題にしなくなっているか、それとも100年後にも愛される「古典」になっているか、誰にも分かりませんよね。
また、最近よく目にする特定のジャンル、たとえば「異世界転生モノ」や「泣ける〇〇モノ」のような流行が、もし100年後には時代遅れと見なされていたら、その時代の読者に響くことは難しいでしょう。
そこでカナダのヨーク大学の研究チームは、まったく新しい方法でこの問題に挑戦しました。
なんと彼らは、あえて小説の物語の内容やストーリーに一切触れず、「どんな言葉をどんなふうに使っているのか」だけを分析したのです。
このアプローチに対して、皆さんは「物語の内容に触れずに評価するのは無理があるんじゃないか?」と疑問に感じるかもしれませんね。
確かにその感覚はもっともです。
ですが、さきほどお話ししたように、本の内容や物語の評価というのは、その時代の流行や評価する人の個人的な好みに大きく左右されてしまいます。
そのため、内容や物語に注目することが、逆にその本の「真の価値」を隠してしまう可能性もあるのです。
そこで研究者たちは、あえて「内容」から離れて、もっと客観的に分析できる方法として「言葉の使い方」を詳しく調べました。
単語や言い回しをパターンとして数値化し、「古典となる小説はどのような言葉をどんなふうに使うのか?」という特徴を見つけようとしたわけです。
ですが、そもそも「内容」を無視した分析だけで、本当に100年後まで読み継がれる「未来の古典」を見抜くことなどできるのでしょうか?
内容ではなく、言葉の使い方という表面的な要素だけで、時代を超える小説を予測することは可能なのでしょうか?