ヘディングは脳に悪い?新しいMRI技術で分析
ヘディングは華麗なゴールや局面の打開に欠かせないプレーですが、頭に何度も衝撃が入ることは確かです。
とはいえ、外から見て大きなケガが起きないことも多く、「本当に脳に悪いの?」と感じる人もいるでしょう。
今回の研究はそうした疑問の答えを提出するために実施されました。
サッカー選手に認知機能の低下や慢性外傷性脳症(CTE)が多いのではないか、という指摘は以前からありました。
しかし、「脳のどこがどう変わるのか」を、生きた人の脳で直接・高精細に捉えた証拠は限られていました。
従来のMRIは脳の“深部”の評価が中心で、皮質近くの灰白質(情報を処理する神経細胞の集まり)と白質(脳の各部をつなぐ神経線維の束)の境目や、表面の“しわ”の谷底である脳溝のごく細かな変化は捉えにくかったのです。
研究チームはここに挑むため、二つのdMRI解析技術を開発。
これにより、灰白質と白質の境界の状態を詳細に知ることができます。

イメージとしては、ふだんは“くっきり二層”に見える境目が、衝撃を重ねるほど“にじむ”かどうかを、統計的に確かめる道具だと考えると分かりやすいでしょう。
そして調査対象は、ニューヨーク周辺のアマチュアサッカー選手352人(18~53歳)と、接触の少ないスポーツ(陸上・水泳など)のアスリート77人です。
参加者は過去1年のヘディング回数を自己申告し、全員がdMRI検査と言葉のリスト学習などの簡単な記憶テストを受けました。
統計解析では年齢・性別・過去の脳震盪歴などを調整し、ヘディング頻度 → 脳の境界の乱れ → 学習・記憶という関係が成立するかを丁寧に調べました。
この研究のねらいは三つです。
第一に、ヘディングが引き起こす微細な変化の“場所”を特定すること。
第二に、その変化が学習・記憶の成績と関連するかを確かめること。
第三に、GWI(Gray-White Interface:灰白質と白質の境界)の指標が将来のリスクを見守る“脳のバイオマーカー”になりうるかを探ることでした。