非常に接近した2つのブラックホール
中国科学技術大学の研究者ジャン・ニン(Jiang Ning)氏は、カリフォルニア工科大学の掃天観測施設「ZTF(Zwicky Transient Facility)」のデータに、遠方銀河から来る独特の信号を見つけました。
分析の結果、彼はこれがブラックホールの連星によるものだと解釈し、この信号を注意深く観察したのです。
すると、その後に驚くべき変化が確認されました。
観測から3年程度で、この2つのブラックホールの間隔が、1光年から1光月まで縮んでいたのです。
通常見つかるこの手の連星では、両天体の間の距離は大きいので、観測している期間中に変化が見られることはありません。
しかし、この信号は特殊でした。
ニン氏の同僚で今回の研究チームの1人、ペリメーター理論物理学研究所フアン・ヤン(Huan Yang)氏は「今まで見たことがないような形で、信号が急激に変化していた」と語ります。
彼らの分析の結果、この信号パターンが継続した場合、ブラックホール連星間の距離は太陽と冥王星間の距離と同じくらいになると予想されたのです。
これは2つの巨大なブラックホールが取る間隔としては、とんでもなく近い距離です。
研究チームはこの結果をもとに、2つの巨大ブラックホールは、これから3年以内、早ければ100日後に衝突する可能性があると結論したのです。
確証を得るには継続した観測が必要となります。
研究を発表しているヤン氏自身も、懐疑的な意見については合理的な判断だと納得しています。
しかし、彼らの予測するブラックホール合併のXデーは間近に迫っているため、ケンブリッジ大学天文学研究所のアンドリュー・ファビアン(Andrew Fabian)教授は、NASAのX線望遠鏡NuStarの予約をして、観測の準備を進めています。
天文学者は以前からブラックホールの合体について予言しており、その痕跡を重力波観測などから捉えています。
しかし、巨大ブラックホールの合併がリアルタイムで目撃されたことは未だありません。
ファビアン教授は次のように語ります。
「これは、今まで目撃されたことのないイベントです。
現時点でかなりのガスがあり、両者が接近した場合、軌道が加速してさらに大量のガスが流入する可能性があります。
これは非常に明るい現象になると考えられますが、詳しい状況を隠してしまうかもしれません」
宇宙には、太陽の数百億倍というとてつもない質量のブラックホールが見つかっています。
こうしたブラックホールの存在は、ただ周囲の物質を大量に吸い込み続けたというだけで説明するのは困難です。
ブラックホールが巨大に成長する可能性は、他の巨大なブラックホールとの合体にあるだろうと多くの天文学者は考えています。
銀河同士がぶつかり合って合体することは知られているため、その際、銀河中心核となっている巨大ブラックホールも互いに引っ張り合って合体する可能性があります。
今回の予測が正しく、観測に成功すれば、それは人類が初めて目撃する巨大ブラックホール同士の合体であり、超大質量ブラックホール形成の瞬間をリアルタイムに目撃することになります。
「この1つの例を使用して、現在あるすべての予測をテストすることが可能になるでしょう」
研究チームのヤン氏はそのように語ります。
これは超大質量ブラックホールを取り巻く多くの謎を解明するきっかけになるかもしれません。