スピノサウルスは「水中を自在に泳げた」と判明
「スピノサウルスの化石記録は厄介で、ほんの一握りしか見つかっておらず、完全な骨格は存在しません」
こう語るのは、フィールド自然史博物館の古生物学者で、本研究主任のマッテオ・ファブリ(Matteo Fabbri)氏です。
「ほかの研究は、おもに解剖学に焦点を当てていますが、同じ骨格について正反対の解釈がいくつもあるため、これはスピノサウルスの生態を予測するアプローチとして、最良ではないと考えました」
こうした視点でいつまでもスピノサウルスの生態について議論を続けても結論はでず、埒が明きません。
そこで、ファブリ氏は新しい別の視点からこの問題を分析することにしたのです。それが「骨の密度」でした。
「地球上のどんな生物にも適用できる法則があります。それは、骨密度と潜水能力についての物理法則です」
密につまった骨は、水中での浮力コントロールに役立ち、巧みな潜水を可能にします。
実際、水に適応した哺乳類は骨密度が高く、スピノサウルスにおいても、水生であったかどうかを知る重要な判断材料になると考えられました。
そこでチームは、陸生と水生の絶滅生物250種と、現存する生物のろっ骨および大腿骨の断面図を集め、データセットを作成。
これらをスピノサウルスと、その近縁種であるバリオニクスおよびスコミムスの骨の断面図と比較しました。
対象とした生物は幅広く、マウスやハチドリ、ゾウ、アザラシ、クジラから、モササウルスやプレシオサウルスなどの絶滅した海洋爬虫類まで含んでいます。
その結果、骨密度と水中適応の間にはっきりとした関連性が認められました。
水中に適応した生物の骨は密につまっているのに対し、陸上生物の骨は、中心がドーナツのように空洞になっていたのです。
つまり、完全に潜水できる生物はすべて、高密度の骨を持っていると言えます。
これを恐竜に当てはめてみると、スピノサウルスとバリオニクスはともに、潜水が可能なレベルの骨密度を有していました。
一方で、近縁種のスコミムスは骨がスカスカで、とても泳げたものではなかったようです。
興味深いことに、地上をのし歩いた巨大な首長恐竜も骨密度が高かったのですが、これは水中適応のためでなく、自らの体重を支えるためと考えられています。
まとめ
骨密度という新たなアプローチから、スピノサウルスやバリオニクスは水中を自在に泳ぎ、魚を食べていたことが示されました。
ファブリ氏は、こう述べています。
「この研究の良いニュースは、恐竜の生態を知るためには『解剖学的構造をたんねんに調べる』というステレオタイプの調査法から脱却できることです。
たとえ、新種の恐竜の骨が数本しかなくても、骨密度を計算するデータセットさえあれば、少なくとも水生か陸生かは推定できるでしょう」
本研究の成果を受け、映画におけるスピノサウルスの描き方も大きく変わるかもしれません。