ダイヤモンドは量子メモリの材料として理想的
量子技術を用いて莫大な情報量の記録を可能にする「量子メモリ」は、量子コンピューターと並んで世界中で開発が進んでいます。
通常のメモリでは情報は0と1の組み合わせによって保存されますが、量子メモリでは量子世界の曖昧さを利用して0と1を「重ね合わせた状態のまま」保存可能になります。
量子コンピューターが0と1を「重ね合わせた状態」を利用して演算を行う一方で、量子メモリでは同じような「重ね合わせた状態」を利用して情報の保存を行います。
送られてきた曖昧な量子の状態をそのまま転写・記録するには記録媒体にも曖昧な量子状態を持っている必要があるのです。
要するに「スゲーメモリ」なわけです。
ただ情報をある程度維持するには0と1を担う電子スピンの方向が安定していなければなりません。
そこで近年になって着目されているのが人工ダイヤモンドです。
ダイヤモンドは強固な結合を持つため「量子メモリ」の材料として理想的です。
ダイヤモンドを量子メモリにする方法として提案されているのが、ダイヤモンド内部に電子溜まり(ダイヤモンドNVセンター)を作成する方法です。
ダイヤモンド内部の炭素の1つを窒素に変換することで、窒素の隣にあった炭素が1つ追い出され、空いたスペースには周囲の炭素から3つ、窒素から2つ、さらに外部から1つの計6個の電子が溜まります。
この電子溜まりにある電子は量子的な曖昧な状態をとっており、外部から送られてきた同じく量子的に曖昧な情報を曖昧なまま記録することが可能になります。
ただ十分な大きさの人工ダイヤを十分な純度で作るのは困難でした。
市場でも窒素濃度が3ppb以下の超高純度の人工ダイヤが出回っていますが、最大でも4mm角に過ぎません。
量子メモリを商用化する場合でも、この大きさの制限はネックになります。
そのためアダマンド並木精密宝石株式会社の研究者たちは以前から高純度の大型ダイヤモンドウェハを作る試みを続けてきました。
研究者たちはサファイアでできた土台を傾斜させた上にダイヤモンド結晶を作成すことで、2021年には直径約5.5cmのダイヤモンドウェハ―を作成することに成功します。
しかし残念なことにダイヤモンド内部に多くの窒素が不純物として含まれており、量子メモリとして使うことはできませんでした。
そこで今回、特殊なガスを用いて窒素混入を防いだところ、直径5.5cmの大きさを保持したまま、ダイヤモンドに含まれる不純物の濃度を800分の1に抑えることに成功しました。
直径5.5cmのダイヤモンドウェハには理論上、Blu-Rayディスク10億枚分に匹敵する情報量の記録が可能だと研究者たちは述べています。
この情報量は、全世界で1日に流れる全モバイルデータ量に匹敵するものとなります。
同社は2023年の商品化を目指している、とのこと。
量子世界の曖昧さを使った演算と記録が実現すれば、人間の脳よりも遥かに複雑な神経回路をシミュレートすることが可能になり、その高度な回路に世界全体の情報を管理させることも可能になるでしょう。
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