陰謀論:大型衝突加速器は並行世界への扉を開く
SERNに対するSF妄想的な陰謀論が叫ばれるのは、もはや恒例のことになっていて、LHCの建設計画が発表された当時は、「CERNの実験でブラックホールが作成されて地球が飲み込まれる」という噂が世界的に話題になりました。
これは彼らの行う実験が非常に難解であり、その割には実験内容について世間的な恐怖を煽りやすい単語が多かったこと、莫大な資金がかかっていたことなどが原因にあるのでしょう。
しかし、ブラックホールというものはホーキング放射によって常に蒸発しているため、LHCを使って生成できるサイズのブラックホールは、せいぜいその寿命は10のマイナス27乗秒に過ぎず、人間や地球が飲み込まれることはありません。
そして今回のLHCアップデートに伴って登場した陰謀論は「並行世界」の話になります。
この陰謀論では「大型衝突加速器を起動すると並行世界への扉が開きマンデラ効果が引き起こされる」と主張されています。
マンデラ効果とは「事実と異なる同じ記憶を多くの人々が共有している現象」を指す言葉(ネットスラング)であり、南アフリカ初の黒人大統領ネルソン・マンデラ氏の名に由来します。
なぜマンデラ大統領の名前が使われているかと言えば、マンデラ氏が指導者として存命中だったころに、本物のマンデラ氏は1980年に獄死しているという記憶を持つ人々が多数現れたことに由来します。
陰謀論者によれば、マンデラ効果は並行世界からの影響があった証拠である、とのこと。
そのためCERN(セルン)の大型衝突加速器が並行世界への扉を開けば、マンデラ効果に陥った(並行世界の記憶を持つ)人々が大勢現れると主張しています。
陰謀論者は、大型衝突加速器によって発見される新たな粒子の中には、想像を絶する性質を秘めたものがあり、理論的には「並行世界から迷い込んだ粒子」も存在する可能性がある、としています。
たとえば新たに検出された粒子が既存の粒子と全く性質が同じであるにもかかわらず質量が違う場合、並行世界から迷い込んだ粒子の可能性が高くなるそうです。
加速器の性能が上昇すれば、未知の粒子の検出される可能性が高くなるのは事実であり、その未知の粒子がいかなる性質をもつのか予測不可能なのも事実です。
そして彼らに7月5日のLHCのアップデートによって、私たちは現在の次元から異なる並行宇宙に移行してしまったと考えているようです。
先週から、元首相の暗殺や宗教団体との関与など、とんでもない事件が続いた日本人にとっては、むしろこのふざけた理論で並行宇宙に飛ばされたと考えた方が納得できそうな気もしてしまいます。
しかし当然のことながら検出という行為と、人々を並行世界に転移させるという結果の間には、いかなる因果関係も存在しません。
神の粒子と呼ばれるヒッグス粒子を発見したCERNで行われている研究には、人類の世界認識を変える力があります。
その力を不安や恐怖に結びつけて、注目を集める手法は確かに陰謀論者にとっては魅力的なのかもしれません。
今後もCERNの注目度を利用した噂やイタズラは絶えることはないでしょう。
科学力を背景にした謎の組織CERNというのも、物語の要素としては確かに魅力がありますが、賢明な人はおかしな理屈に飛びつかず、確かな成果にだけ目を向けていきましょう。