日本の子は大きくなるにつれ「歩数のテンポ」が速くなる?
普段、子どもの歩き方を気にして観察している人は少ないでしょうが、小児科医にとっては重要な情報となります。
というのも、歩き方は、その子の健康状態や身体的な発達具合を調べる指標となるからです。
そのため、近年、世界各国で「子どもの歩き方」の国家基準を決める試みが進められています。
名古屋大らが行った調査もその一環であり、国内で子どもの歩行の基準値を作成するのは今回が初めてです。
研究チームは、愛知県岡崎市内に住む6~12歳の小学校児童、計424人(女児216人、男児208人)を対象に、3D歩行分析システムを使って、歩行中の足の動きを調べました。(調査期間は、2018年1月から2020年3月)
骨盤〜つま先に反射マーカーを貼り付け、8メートルの歩行路を最低3回以上歩いてもらい、平均値を算出。
そのデータをもとに、骨盤、股関節、ひざ関節、足関節、つま先の向きや動きを点数化し、歩容(歩くときの姿勢や動き)の得点を導き出しました。
そして、年齢ごとの歩行を比較するため、年少者(6〜8歳)、年中者(9〜10歳)、年長者(11〜12歳)の3グループに分けて、「歩行中の下肢の動き」と「歩容の点数」を比べ、発育曲線を作成しました。
データ分析の結果、歩行中の下肢の動きの多くは、6〜12歳で似ていたものの、年齢が高くなるにつれて、歩幅やストライドが小さくなり、それに応じて1分間の歩数が増えていたのです。
歩幅(ステップ幅):片方のかかとが地面についてから、もう片方のかかとが地面につくまでの両足間の距離
ストライド(重複歩):片方のかかとが地面についてから、同じ側が再び地面につくまでの動作
つまり、日本の子どもでは、年長になるほど「歩数のテンポ」が速くなっていたのです。
また、年長になるほど、股関節や膝関節の可動域が狭くなっており、足が地面から離れたときの膝の曲がる最大角度が、年少者に比べて小さくなっていました。
総じて、年長の子どもは、年少の子どもに比べて、歩き方が綺麗になっていた(歩容の点数が高くなっていた)ようです。
しかし、日本の子どもにおける歩行の変化は、アメリカ、ドイツ、南アフリカ、メキシコといった諸外国の子どもとは傾向が違っていました。
たとえば、日本の子どもは、年齢が高くなるにつれて、1分間の歩数が増えていましたが、諸外国の子どもでは、7歳以降、歩数は変わらないか、少なくなることが先行研究で示されています。
それから、日本の子どもでは、歩行中の股関節の動きが軽く内股で、年長になってもその動きに大きな変化はありません。
一方で、諸外国の子どもは、成長にともなって股関節が外側に向いていく傾向が強いです。
日本と海外でこうした違いが出る理由は定かでありませんが、研究主任の一人である伊藤忠(いとう・ただし)氏は「骨格の成長や文化、生活習慣の違いが、日本の子どもの歩行に、他国とは違う影響を与えている可能性がある」と指摘します。
たとえば、「日本では小さい頃から、しゃがんだり、正座する機会が他国に比べて多いことが関係しているのではないか」と推察しました。
このような日本的な習慣により、股関節が外向きになるのが抑制されているのかもしれません。
ただ、この研究は海外の掲示板Redditでも話題になっており、日本と海外で成長に従い歩き方が異なってくる文化的背景の違いについて、いくつか考察されています。
たとえば、歩幅が狭まると基本的につま先を使った歩き方になり、大股で歩くとかかとを使った歩き方になるため、歩行時に出る音が変わるという点に着目する人がいます。
これは静かな歩き方をエチケットに考える文化圏では、歩幅が狭まる傾向になるのではないか、というのです。
また、日本は自由に歩けるスペースが少ないため、成長に従い歩幅が狭まるのではないか、という意見もあるようです。
だいぶ海外の先入観が含まれた意見ですが、確かに日本は集合住宅で暮らす家庭も多いため、全く無関係ではないかもしれません。
日本と海外で成長に従い歩き方が異なるというのは興味深い報告です。
いろいろ理由を考えてみると面白いかもしれません。