最大で5分半も誘惑に耐えることができた
スズメ目カラス科の一種であるカケスは、ヒト以外の霊長類に匹敵する認知能力を持つことから、しばしば”羽毛類人猿(feathered apes)”というニックネームで呼ばれることがあります。
本研究では、カケスの自制心を調べるため、「マシュマロ・テスト」をベースとした実験を行いました。
マシュマロ・テストは、子どもの自制心を検証するために考案された実験で、目の前のマシュマロを15分間ガマンできれば、もう1つ追加でマシュマロが与えられます。
今回は10羽のカケスを対象に、マシュマロの代わりとして、一番の好物であるミールワームと二番目に好きなパンとチーズを用いました。
実験ではまず、カケスの目の前にすぐに食べられるパンとチーズを差し出します。
その一方で、アクリル板の向こうに見えてはいるが、一定時間経たないと手に入らないミールワームを置いておきます。
もしガマンできずにパンとチーズを食べてしまったら、ミールワームは与えられません。
ここでは、カケスがどれだけ目先の誘惑に耐えられるかを確かめるべく、5秒〜5分半の遅延時間で繰り返し検証しました。
規定の遅延時間を耐えることができれば、ミールワームが与えられます。
そして実験の結果、10羽すべてのカケスが程度の差こそあれ、ミールワームを手に入れるために遅延時間を耐えられることが判明しました。
一方で、自制心には個体差があったようです。
最も自制心の弱かった「ドルチ(Dolci)」と「ホーマー(Homer)」は最大で20秒しか待てませんでしたが、最も強い自制心を示した「ジェイロ(JayLo)」は、パンとチーズを完全に無視して5分半耐え切ることに成功しました。
こちらが実際の映像で、テストを受けているのがジェイロです。
研究主任のアレックス・シュネル(Alex Schnell)氏は「遅延時間の間、私はだんだん飽きてきたのですが、ジェイロはただ辛抱強くミールワームを待ち続けていました」と話します。
また、カケスたちはパンやチーズを差し出されると、誘惑から気をそらすかのように目を背ける傾向にありました。
この行動は同じ実験を受けたチンパンジーやヒトの子どもでも確認されています。
これと別にチームは、10羽のカケスの知能スコアを測定するため、よく使われる5つの認知タスクを課しました。
すると興味深いことに、自制心の弱いカケスほど知能スコアが低く、自制心が強いカケスほど知能スコアも高いことが判明したのです。
このことから、カケスにおいても知能と自制心が相関していることが確認されました。
ヒトにおいても、マシュマロ・テストを受ける子どもたちの自制心には個人差があり、それが一般的な知能スコアと関連することがわかっています。
たとえば、誘惑に長く耐えられる子どもほど、学習課題でも高い得点を示しているのです。
能力差の原因は定かでないものの、こうした自制心の違いが多様な個性を生んで、カケスをより愛おしい存在にしているのでしょう。