キアヌ並の殺傷力でヒトと植物を真菌から救う?
独ライプニッツ天然有機化合物研究所(Leibniz-HKI)のチームは以前から、シュードモナス属の研究を続けており、これらの種の多くが細菌を餌とするアメーバの殺傷能力を持つことを知っていました。
シュードモナス属の細菌から新たな有効成分「キアヌマイシン」が見つかったのは、その研究の最中のことです。
ここで研究チームは、細菌から単離したキアヌマイシンについて、生物に有害な真菌に対する殺傷能力を調べることを思いつきました。
研究主任のピエール・ストールフォース(Pierre Stallforth)氏はその理由について「真菌はアメーバと似た性質を持つため、この物質(キアヌマイシン)が真菌を殺すのにも有効なのではないかと考えたのです」と話します。
実験では、植物に感染する壊死性真菌の一種「ボトリティス菌」への抗菌性を検証。
ボトリティス菌は植物に感染して灰色かび病を誘発し、毎年、果物や野菜の栽培に多大な損失をもたらすことで有名です。
この菌にはイチゴやブドウなど、200種以上が被害を受けています。
そして、シュードモナス属の培養液から得られたキアヌマイシンをアジサイの葉っぱに感染したボトリティス菌に塗布したところ、菌を勢いよく殺傷し始め、その成長を著しく抑制することが判明したのです。
これはキアヌマイシンが作物用の新たな抗真菌剤の開発に有効であることを示します。
またキアヌマイシンは生分解性であるため、土壌中に残留することがありません。
つまり、この天然物質は、従来の化学農薬に代わる環境に優しい農薬となる可能性を秘めているのです。
さらに驚きはそれだけに留まりませんでした。
チームは追加実験で、ヒトに感染する真菌への有効性も検証。
単離したキアヌマイシンを様々な真菌に対してテストした結果、有害な真菌の一つである「カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)」を殺傷できることが判明したのです。
C. アルビカンスはヒトに感染して「カンジダ症」を誘発する病原性真菌で、患部に発疹やかゆみ、腫れを引き起こします。
また今のところ、キアヌマイシンは植物や人間の細胞に無害であることが示されており、人体に用いる新たな抗真菌剤のような医薬品の開発にも適しています。
研究者によると、カンジダ症に対する有効な薬剤はあまり市場に出回っていないため、こうした医薬品はすぐにも必要とされているという。
キアヌ・リーブス演じる代表的な役には、マトリックスのネオや、ジョン・ウィックなど殺傷力の高いキャラクターが並びます。
研究者はそうした彼の演じるキャラクターたちの戦いぶりを、今回人や植物の敵である真菌を退治してくれる存在と重ねたようです。
冗談のような命名をされたキアヌマイシンですが、将来本当にネオのような人類の救世主になるかもしれません。