5万年近くもの長い休眠状態からも復活!
永久凍土とは、高緯度の寒い地域に広がる一年を通じて氷が溶けない地層のことです。
永久凍土が優れた”タイムカプセル”になることは以前から知られており、マンモスやオオカミなど、絶滅した動物種の遺骸がきれいな保存状態でよく見つかっています。
また凍土から回収された植物の種を解凍すれば、再び成長させられることも先行研究で示されていました。
一方で、近年の温暖化による急速な永久凍土の溶解は大きな危険もはらんでいます。
たとえば、凍土から露出した有機物が分解されることで、膨大な二酸化炭素やメタンガスが発生し、温暖化に拍車をかける恐れがあります。
もう一つは凍土の中に眠っていた危険な古代ウイルスが目を覚ますことです。
実際、2016年にはロシアの永久凍土から溶け出した炭疽菌が現地のトナカイに感染し、およそ2300頭以上を死滅させています。
ただ、こうした炭疽菌が永久凍土に封じ込められたのは70年程度のことだと考えられています。
では数万年以上も前に永久凍土に閉じ込められた古代のウイルスでも、同じような事件は起こり得るのでしょうか?
そこで今回のチームは、永久凍土に封じ込められてから数万年以上が経過している古代ウイルスが、今でも感染力を持つかどうかを検証することにしました。
検証に使用されたのはシベリアに広がる永久凍土の7カ所で採取された、人類がまだ遭遇したことのない古代ウイルス13種です。
うち7種はパンドラウイルス属(アメーバに寄生するウイルス)の仲間で、最古のものは「パンドラウイルス・イェドマ(Pandoravirus yedoma)」と命名され、約4万8500年前の種であることがわかっています。
他には、セドラトウイルス(Cedratvirus)、ピトウイルス(Pithovirus)、メガウイルスマンモス(Megavirus mammoth)、パックマンウイルス(Pacmanvirus)で、これは約2万7000年前のマンモスの毛から見つかりました(下図を参照)。
実験では安全を期して、人間や他の動物には感染せず、単細胞のアメーバにのみ感染するタイプのウイルスを対象に感染力の検証を行いました。
ウイルスの復活に特別な呪文や儀式は必要ありません。
ごく単純に凍土サンプルから単離したウイルスを解凍して、活性を取り戻すかどうかを観察するだけです。
この実験では、培養したアメーバに接触させて感染力をテストしました。
その結果、最も古い約4万8500年前のパンドラウイルスがアメーバに感染できることが確認されました。
数万年におよぶ休眠状態から元の状態に復活できるこの生命力を指して、研究チームは「ゾンビウイルス(zombie viruses)」と呼んでいます。
エクス=マルセイユ大学の微生物学者で研究主任のジャン=ミシェル・クラブリー(Jean-Michel Claverie)氏は「今回見つかった新種ウイルスたちは、いまだ永久凍土に眠っているウイルス全体からすれば氷山の一角にすぎない」と指摘します。
もちろん、それらのウイルスも数万年の眠りから復活し得るのか、また人間やその他の動物にも感染し得るのかは分かりません。
しかし永久凍土の広さを考えれば、そうした危険なウイルスはごまんといるはずです。
加えて、深刻化する温暖化の影響で永久凍土の溶解はどんどん進んでおり、産業の発展に伴って高緯度に進出する人口が増えれば、人間とウイルスとの遭遇リスクもますます高まっていくでしょう。
クラブリー氏は「古代のウイルスが復活するというのはSFのような話ですが、気候変動の影響もあり、私たちが対処しなければならない問題なのです」と話しています。