現代に復活したマンモス肉のミートボール
マンモスは、ゾウに似た巨大な生物であり、大きな個体では肩の高さが4.5m、体重は20t近くもあったと推測されています。
彼らは400万年前から存在し、約1万年前には気候変動などが原因で絶滅したと考えられています。
これまでに多くのマンモスの化石が発掘されており、2007年にはシベリアでほぼ無傷な凍結マンモスが発見されました。
こうした発見が、「絶滅した巨大生物」として、私たちの中にマンモスの強いイメージを植え付けることになりました。
そして、この絶滅生物に目を付けたのは培養肉会社でした。
これまでにアルパカ、バッファロー、ワニ、カンガルーなど50種類以上の培養肉の開発に取り組んできたVow社は、次のターゲットに、ケナガマンモス(学名:Mammuthus primigenius)を選びました。
Vow社の創業者の1人ティム・ノークスミス(Tim Noakesmith)氏は、その理由を「気候変動によって失われたものの象徴だから」と述べています。
培養肉は、今後の気候変動や人口増加などで変化していく世界に対応するため生み出された新しい食料生産技術です。
「なにか新しいことに挑戦しなければ、人間もいずれはマンモスと同じ運命をたどることになる」ノークスミス氏はそのように語ります。
Vow社はこれを実現するために、オーストラリア・クイーンズランド大学(The University of Queensland)のエルンスト・ヴォルベタン氏と協力しました。
彼らはまず、マンモスの筋肉タンパク質からDNA配列を取り出しました。
肉に風味を与える上で重要なタンパク質「ミオグロビン」のDNA配列を特定して、その情報を抜き出したのです。
次に、マンモスに最も近い現生動物であるアフリカゾウ(学名:Loxodonta africana)のDNAを用いて、マンモスのミオグロビン配列に欠けている部分を補完しました。
そしてこの配列をヒツジの細胞に挿入し、複製することで200億個の細胞に成長させました。
これにより、ケナガマンモスのDNAを含む「培養肉」が作られたのです。
Vow社は「絶滅したマンモスに近い肉を生み出す」という驚嘆すべき成果を上げましたが、技術的にはそこまで大変ではなかったようです。
ヴォルベタン氏は、培養のプロセスについて「とんでもなく簡単で早く、2.3週間で完成した」と述べています。
さらにVow社は、この「マンモス肉」を用いた巨大なミートボールを作り、オーブンでじっくりと焼きました。
アニメや漫画で扱われてきたマンモスの肉は、果たしてどんな風味なのでしょうか?
Vow社の最高責任者であるジェームズ・ライアン氏は、「ワニの肉を調理した時のような匂いがした」と、この時の感想を語っています。
ただし、現段階では安全検査を経ていないため、その味を確かめることはできません。
絶滅したマンモスの肉を食べたことのある人など存在せず、現代人の免疫系がどう反応するのか分からないからです。
マンモス肉のミートボールは、現在オランダの首都アムステルダムにあるNEMO科学技術博物館で展示されています。
Vow社は今回の取り組みで、人々に「食の未来」や「培養肉の可能性」を伝えたかったようです。
もしかしたら近い将来、本当に「マンモスのマンガ肉にかぶりつく」なんてことも可能になるのかもしれませんね。