テロメアが長い人は若々しい一方で「がん」になりやすい
調査にあたって必要となるのは、長いテロメアを持つ人々です。
そこで研究者たちは、テロメアの長さを制御する遺伝子「POT1」が変異した人々を探しました。
これまでの研究で「POT1」に特定の変異が起きている人々は、生まれつき長いテロメアを持つことが知られているからです。
すると幸いなことに、該当する特性を持つ17人が見つかり、2年間にわたる健康状態の継続的な追跡に協力してくれることになりました。
17人の参加者のうち13人は普通の人よりも90%長いテロメアを持っていることが確認されています。
また6人の参加者は70代にもかかわらず白髪が少ないなど、若々しさの兆候がみてとれました。
近年の研究では見た目の若さが生物学的な年齢とリンクしていることが示されており、見た目で若い人ほど余命が長いことがわかっています。
しかし結果は意外なものとなりました。
2年間の追跡期間に17人中12人でさまざまな良性または悪性の腫瘍が発生したことが確認され、そのうち4人はリンパ腫・結腸がん・白血病・脳腫瘍を発症して死亡してしまったのです。
また12人の参加者の血液サンプルを調べたところ、8人(67%)で異常な血液細胞が増殖してしまう「クローン性造血」の兆候がみられることが判明します。
(※クローン性造血は血液を作る造血細胞に変異が起きて正常な造血細胞よりも増殖能力が優勢になり、変異した血液細胞が作られ続けてしまう病気です)
またクローン性造血では変異した血液細胞が増えてしまうため、がんの発症率を引き上げることが知られています。
クローン性造血は70歳以降の人々の20%で起こることが知られている一般的な症状ですが、参加者の発症率(67%)は普通の人と比べて異常なほど高くなっていました。
この結果は、長いテロメアを持つことが変異細胞を増加させ、がん発症率を引き上げている可能性を示します。
しかしそうなると気になるのが、その仕組みです。
長いテロメアはどんな仕組みで変異細胞を増加させていたのでしょうか?
長いテロメアは細胞の耐久性を上げ死ぬべき変異細胞が生き残ってしまった
私たちの体が健康であり続けるためには、細胞を健康な状態で維持するだけでなく、がん化につながりかねない変異細胞を素早く殺すことが必要となります。
しかし今回の研究により、長いテロメアは変異細胞を増やし、がんを起こしやすくしてしまうことが示されました。
そのため研究者たちは「長いテロメアの真の効果は、老化を防いだり絶対的な寿命の長さを延長するのではなく、細胞の耐久性を向上させることにある」と結論しました。
細胞の耐久性を向上して細胞が死ににくくなるのは、一見すると健康によく思えるかもしれません。
しかし細胞の耐久性の増加は、本来ならば早く始末しなければならない変異細胞の耐久性も上げてしまい、結果としてがん化が起こりやすくなってしまうのです。
長いテロメアを持つ参加者たちの体内で、変異した血液細胞が増えてしまう症状も、死ぬべき変異細胞が耐久性向上によって生き残ってしまった結果だと考えられます。
また追加の研究で、2年後のテロメアの長さを測定したところ、長いテロメアを持つ人々はテロメアの長さがほとんど減っていないことが示されました。
研究者たちは今後、長いテロメアを持つ人々の、血液細胞以外の他の細胞の突然変異率を調べていく、とのこと。
もし突然変異を上手く抑制したり、変異した細胞を素早く除去する方法がみつかれば、テロメアを伸ばすことは若々しさを維持する重要な鍵になる可能性はありますが、現状では長いテロメアは生物に有利に働く要素ではない可能性が高いようです。