なぜ幽体離脱は誤解されてきたのか

自分の身体を離れて宙に浮かぶような感覚――そんな体外離脱体験は古くから報告されています。
日本では幽体離脱というオカルト用語のほうが有名ですが、いわゆる幽体離脱も医学的には体外離脱体験(OBE)と考えられています。
医療や心理の分野では、解離性障害(ストレスやトラウマに対処するため意識が分離する障害)や統合失調症などいくつかの精神疾患で見られる症状として体外離脱体験が語られてきました。
また、体外離脱体験者には身体イメージのゆがみや現実感の喪失など解離症状の傾向が高いとの指摘もあります。
一方で、体外離脱体験そのものが直ちに「心の病」を意味するわけではないとの見解も以前からありました。
例えば、1980年代の調査では体外離脱体験者の約55%が「人生が変わった」と答え、71%が「長く続く恩恵を得た」、40%に至っては「人生で最高の出来事だった」と感じていたという報告もあります。
さらに多くの体験者が、「死の恐怖が薄れた」「心の平穏が増した」といった前向きな変化を口にしています。
つまり、体外離脱体験にはポジティブな側面もあり、必ずしも本人に害を及ぼす経験ではないのです。
とはいえ、医学的には「体外離脱体験=病的」という偏見やスティグマ(烙印)が根強く、本人も周囲もそれを語りたがらない傾向がありました。
実際、「体外離脱を体験するのは自分がおかしい証拠だ」と思い込み、周囲に知られることを恐れて隠してしまう人も多いといいます。
米バージニア大学医学部のMarina Weiler博士(神経科学者)も「残念ながら、多くの精神保健の専門家も同じように捉えています」と指摘しています。
Weiler博士ら研究チームは、こうした状況を踏まえ、「果たしてOBEは本当に病の兆候なのか?」という疑問を検証することにしました。
研究の狙いは体外離脱体験者の精神的な健康状態を客観的に評価し、一般の非体験者と比べて遜色ないかどうかを確かめることでした。
もし体外離脱体験者のメンタルヘルスが非体験者と大差ないと示されれば、「体外離脱体験=病理」という単純な図式に疑問を投げかけることになるでしょう。