体外離脱は“心のエアバッグ”だった

Marina Weiler博士は今回の知見について、「私たちの発見は、体外離脱体験が過去のトラウマに対する対処メカニズムとして機能している可能性を示唆しています。」と説明します。
研究チームはさらに、OBEそのものが精神疾患を引き起こす原因というよりも、過去の辛い経験から自分を守るために心が無意識にとる対処手段となっている可能性を指摘しています。
実際、幼少期に深い心の傷を負った人が大人になってからフラッシュバックや解離症状を示すことがありますが、OBEもそれに近い「解離的な対処反応」と位置付けられるかもしれません。
研究チームは論文の中で「この見方に立てば、体外離脱体験を原因と捉えるのではなく、困難な体験を乗り越えるための結果として捉え直すことになる」と述べています。
この再解釈は単に学術的な議論に留まりません。
もし体外離脱体験が病的症状ではなく心の適応的な反応だと理解されれば、臨床現場や研究の方向性、そして社会の受け止め方まで大きく変わる可能性があるとWeiler博士は強調します。
従来、体外離脱体験を打ち明けられても多くの専門家は「それは病気の兆候だ」と受け止め、場合によっては症状として抑え込もうとしたかもしれません。
しかし今後は、体外離脱体験そのものを否定的に捉えるのではなく、その背景にあるストレスやトラウマに目を向けたケアが重要になるでしょう。
Weiler博士もまた、体外離脱体験を巡る偏見(スティグマ)を減らし、体験者が支援を受けやすくなるよう社会的な理解を促す必要性を訴えています。
体外離脱体験についてオープンに語れる空気が生まれれば、体験者どうしがお互いを支え合いながら心の回復力(レジリエンス)を高めていくことも期待できます。
研究チームは、本研究の結果を踏まえて、今後さらに追試や質的研究を行い、体外離脱体験の多様な側面を明らかにしていく必要性を強調しています。
体外離脱体験は決して珍奇な現象や狂気の兆候ではなく、人間の心が極限状態で編み出すひとつのサバイバル戦略なのかもしれません。
この新たな視点が、多くの人々にとって体外離脱体験の謎に光を当て、偏見なく語り合えるきっかけになることが期待されます。