“病理ラベル”を剥がす瞬間

体外離脱は本当に精神的な「病気」なのか?
答えを得るため研究チームは18歳以上の計545名(体外離脱体験者256名+非体験者289名)を対象にオンライン調査を行いました。
まず「あなたはこれまでに体外離脱体験をしたことがありますか?」という質問でグループ分けし、全員にこれまでの精神疾患の診断歴や治療歴、さらには子ども時代のトラウマ体験などについて詳細に回答してもらいました。
また体外離脱体験者には初めて体外離脱を経験した年齢やその頻度、状況(睡眠中、薬物影響下、瞑想中など)についても尋ねています。
その結果、体外離脱体験の初体験年齢は平均20歳前後(20±9.4歳)であり、比較的若い年齢で経験する人が多いことがわかりました。
各人の体外離脱発生頻度は「生涯で1~4回程度」が8割を占め、大半は特に誘因もなく突然起こるタイプ(約74%)でした。
意外なことに薬物や瞑想など意図的に引き起こしたという人はごく少数でした。
肝心の精神的健康度については、いくつかの指標でグループ間に差が見られました。
例えば、心理的ストレスを測る20項目の自己評価質問票(SRQ-20:スコア7以上が臨床的に有意とされる)では、体外離脱体験者の約53%が臨床的に有意なストレスレベル(スコア7以上、論文Table 3)に該当したのに対し、この臨床域に該当した非体験者は44%でした。
さらに、何らかの精神疾患の診断を受けたことがある人の割合は、体外離脱体験者で32%、非体験者では22%と有意に体験者グループの方が高率でした。
社会生活への適応度や解離症状(Dissociative Experiences Scale–Taxon: DES-T。解離症状の程度を測る尺度)の程度についても、統計的には体外離脱体験者のほうが明確に悪い傾向が示されています。
研究チームは当初「体外離脱体験者のメンタルヘルスは非体験者と遜色ない(劣っていない)はずだ」という仮説を立てていましたが、データは残念ながらその仮説に反する結果となりました。
つまり、数字の上では体外離脱体験者のほうが精神的な不調や診断歴が明確に多いことが分かりました。
しかし注目すべきは、そうした心理的な不調と並行して、体外離脱体験者には子ども時代のトラウマ(心的外傷)経験が多いことも明らかになった点です。
調査した幼少期の虐待や心的ストレスに関する質問票のスコアは、体外離脱体験者グループで有意に高く、幼少期に深い悲しみや苦痛を経験している人が多い傾向が示されました。
これは、体外離脱体験がそうした過去の心的外傷と何らかの関係がある可能性を示唆するものです。
また、体外離脱体験者では初めて体外離脱を体験してからの経過時間が短いほど現在の心理的ストレスが高い傾向も指摘されました。
言い換えれば、最近になって体外離脱を経験した人ほど、心の不調を抱えている割合が高かったのです。
このことから研究チームは、「体外離脱それ自体が人を病ませている」というより、むしろ「心が不調なとき・傷ついたときに体外離脱が起きやすい」のではないかと考察しています。