なぜノロウイルスワクチンは無いのか?
2023年6月現在、ノロウイルスを予防できるワクチンを打つことはできません。
なぜノロウイルスワクチンが製品化されていないのかは、ノロウイルスの性質とそもそもワクチン開発が難しいという2点が原因です。
ノロウイルスは培養が難しい
ノロウイルスは基本的にヒトの腸管でしか増えることができません。
そのため、試験管内で人工的に増やすことはできず、思うように研究が進みませんでした。
しかし、2014年はB細胞由来のBJAB細胞、2016年にはES細胞から樹立した腸管オルガノイド、2018年はIPSから樹立した腸管オルガノイド、2022年は唾液腺から樹立した細胞と、次々とノロウイルスを培養できる細胞を作り出せるようになってきています。
人工的に作り出した細胞でノロウイルスの培養が可能となり、開発速度の向上につながっています。
ただ、ウイルス保存液には感染者の便材料が必要であること、培養のための細胞を作り出すコストが高額であること、といった課題は依然残っていることが現状です。
より研究や開発がより進みやすくなるためには、さらなる改良が必要となります。
また、ノロウイルスの種類は1つではありません。
ヒトに感染する遺伝子群はGI、GIIの2種類ですが、それぞれ14種類、21種類の抗原性が異なる遺伝子群に分類されます。(参考:NIHS)
感染症として流行するウイルスの遺伝子型は変化しており、ノロウイルスを完全に予防するためには複数の型に効果がなければなりません。
そのため、1つの遺伝子群に効果があるワクチンを開発を進めていても、「ほかの遺伝子型に効果があるのかどうか」という課題も残されています。
法的に安全性を立証するまでの道のりが長い
ノロウイルスに限らずウイルスに対するワクチンの製品化は容易ではなく、何年もの期間が必要となります。
それは、予防に有効なワクチンを開発するまでに時間がかかるうえ、完成後も安全性を確保するために3段階に分けて臨床試験が行われるからです。
新型コロナウイルス感染症の際には世界的な危機があったことから各国が力を入れ、かなりの短時間で製品化までこぎつけましたが、ほかのウイルスではそうはいきません。
臨床試験では、第1相では少人数、第2相では健康な人に限定した試験、第3相では大規模な集団に接種しデータを集計します。
特に大変なのは第3相です。集めなくてはならない被験者の数が数千人規模と多いうえ、ここで効果が少ない、安全性が低い、といったことが分かれば製品化への道はストップします。
何年もの年月をかけて開発や臨床試験を行い効果と安全性を確保できたら、政府からの承認を受け、さらに第4相の臨床試験が行われたあとようやく製品化が実現するのです。