ラットをくすぐる研究で「笑いと遊び心の中枢」を発見!
意外かもしれませんが、ネズミも楽しくなると笑い声を上げます。
ラットをくすぐったりラットと一緒に遊ぶ実験では、楽しんでいるときのラットが、人間には聞こえない超音波の「笑い声」をあげていることが示されています。
他にも類人猿、鳥類、昆虫、トカゲやカメ、そして魚類に至るまで、幅広い種が「遊び」を行うことがわかってきました。
しかし遊びは理解が遅れている行動であり、動物が遊ぶときに脳内でどんな現象が起きているかは大きな謎となっていました。
多くの人は「遊びは子供じみた行いで重要ではない」という偏見を持っており、遊びの研究は後回しにされ続けていたからです。
しかし過去に行われた研究では、意思決定に必要な大脳皮質が全て破壊されたラットでも、フラフラと遊びを続けることが示されています。
この結果は、恐怖や怒りと同様に、遊びも脳の奥深くに刻み込まれた本能的なものであることを示しています。
そこで今回、ベルリン・フンボルト大学の研究者たちは「笑いや遊び心」を司る脳回路が、脳のどこにあるかを調べることにしました。
調査にあたってはラットたちの脳に電極が刺し込まれ、ラットが笑ったり遊んでいるときの脳活動が調べられました。
研究者たちは手を使ってラットと一種の「喧嘩ごっこ」を行い、ラットを手を使って追いかけてくすぐったり、逆にラットに追われたりを演じます。
ラットたちも犬や猫のように「喧嘩ごっこ」をして遊ぶ習性があるためです。
すると中脳にある水道周囲灰白質(PAG)と呼ばれる脳領域に存在するいくつかのニューロンが大きく活性化していることがわかりました。
この中脳の領域は動物の脳の中でも最も古くから存在している部位であり「闘争と逃走」という相反する行動を制御すると同時に、鳴き声にも関与することが示されていました。
「喧嘩ごっこ」においては偽の攻撃と偽の逃走劇が交互に演じられ、ラットたちは鳴き声を上げながら遊びます。
そのため闘争と逃走そして鳴き声を司るPAGは遊びを制御する部位として有力な候補と言えるでしょう。
ただし、遊びによって活性化するという事実だけでは、PAGが遊びの制御をしていると断定することはできません。
そこで次に研究者たちは、ラットの脳を操作し、PAGの機能を破壊することにしました。
するとラットたちはくすぐられても笑声をあげなくなり、遊びに対する興味も失ってしまいました。
この結果は、ラット脳のPAGには「笑いと遊び心」を司る脳回路が存在していることを示しています。
笑いと遊び心がセットで制御されているのも、偶然ではありません。
過去の研究では、笑い声と遊びの直接的な関係性も示されており、くすぐられて笑い声をあげやすいラットほど、遊び好きであることが判明しています。
研究者たちは「たとえば子供たちが(ヒーローと悪の怪獣の戦いなど)喧嘩ごっこをするときも、常に笑い声をチェックしています。遊び相手が笑わなくなったら、喧嘩ごっこは中止されます」と述べ、笑いは遊びの維持を見極めるためにも切り離せない要素だと結論しています。
しかしなぜわざわざ動物たちは偽の攻撃と偽の逃走という要素を楽しいと感じるのでしょうか?
研究者たちは遊びを通して、本物の捕食者や競争相手に出会ったときのシミュレーションを脳に行わせている可能性について言及しています。
これまでの研究で人間もラットも、遊んでいるときに最も創造性が最も高く思慮深くなることが知られています。
これは「うつ病」の状態とはまさに逆です。
うつ病になると、楽しい経験をしても笑えなくなり、遊びをしても楽しめなくなってしまうことがあるのです。
そのため研究者たちは「笑いと遊び心」を刺激する薬を探すことは、うつ病を治療する有効な目標になると述べています。
また近年の研究では、遊びができない状態になった動物が憂鬱になったり、社会的関係を築くのに失敗したり、ストレスから立ち直る回復力が低下するなど、遊びの欠如が脳にマイナスの影響を与えることがわかってきました。
遊びたいという本能的な欲求は私たちの脳深くに刻み込まれており、精神的に健康でいるには適度な遊びが必要なのでしょう。
人からいじられるとすぐにキレてしまったり、遊び心が低下してくると、他者の関係を築くことが難しくなり、うつ状態に向かってしまうことはあるかもしれません。
気分が落ち込んできているときは、自分は遊び心を忘れていないか自身を見つめ直してみるといいかもしれません。