アルコール依存症のサルを用意し脳の遺伝子を改変する
脳の遺伝子を書き換えても問題ないアルコール依存症患者はどこにいるのか?
この問題を解決するために研究者たちはまず、アカゲザルたちにアルコールを与え続け、アルコール依存症のサルを作りました。
サルにはもともとお酒を飲む習性はありませんが、大量のアルコールを飲む習慣をつけることで、人間とよく似たアルコール中毒状態にできるのです。
またアルコール依存症に陥ったサルの脳では人間と同じく、ドーパミンの分泌が少なくなります。
次に研究者たちはアル中サルたちを一時的に眠らせ、頭蓋骨にドリルで穴をあけました。
そして脳内でドーパミンを分泌する役割を持つ腹側被蓋野(VTA)と呼ばれる領域に、無害なウイルス(アデノ随伴ウイルス:AAV2)を注射しました。
このウイルスの中には人間由来の遺伝子である「GDNF」という遺伝子があらかじめ組み込まれています。
「GDNF」は成長因子の一種であり、ウイルスが感染して内部に入り込むと、ドーパミンを分泌する細胞数を急速に増加させるように作用します。
ドーパミンを分泌する細胞数が増えれば、アル中サルたちのドーパミン不足も解消されるはずです。
研究では4匹のアル中サルたちに対してこの処置が行われ、アルコール依存症の症状に変化が起きたかどうかが確かめられました。
結果、処置を受けたサルたちのアルコール摂取量が90%以上減少していることが判明。
また断酒期間を挟んで飲酒が再開するかも調べたところ、サルたちはアルコールに対する興味を失っていました。
この結果は、脳の遺伝子改変によってサルたちのアルコール依存症が治療されたことを示します。
しかしサルたちの脳内で予想通りの反応が起きたかを調べるには、脳サンプルが必要でした。
そのためサルたちは安楽死させられ、摘出した脳が調べられました。
すると脳の遺伝子改変処置を受けたサルたちでは、GDNF(成長因子)とドーパミンの両方のレベルが高くなっていることが判明。
つまり脳の遺伝子を改変されたサルたちは、脳内でドーパミンが過剰分泌されるようになったことでドーパミン不足の問題が解決し、アルコールへの興味を無くしたのです。
人間にも同様の手段が上手くいけば、脳の遺伝子を書き換えることでアルコール依存症を治せるでしょう。
しかし研究者たちは、この方法は最後の手段であるべきだと述べています。
というのも脳細胞に対する遺伝子改変効果は永続するため、元に戻すことができないからです。
ただ命にかかわるほど重度のアルコール依存症である場合、脳の遺伝子改変は1つの選択肢になるでしょう。
研究者たちは、脳の遺伝子改変によるドーパミン不足解消は、お酒だけでなく他の薬物依存に対して有効な手段になる可能性があると述べています。