哺乳類では初となる挿入しない交尾
観察の結果、上の動画のようにクビワコウモリたちは哺乳類では初発見となる「接触交尾」を行っていることが判明しました。
接触交尾とは、オスメスの生殖器同士をこすり合わせるだけで挿入の伴わない交尾の方法です。
このような交尾方法は主に鳥類が行っています。
鳥類はほとんどの種がペニスを持っておらず尿も糞も精子も全て同じ「総排泄腔」と呼ばれる共通の穴から排出します。メスも同様に総排泄腔が膣としても機能します。
そのため鳥類は交尾の際、生殖器の挿入を行わずお互いの総排泄腔をキスさせるようにくっつけて交尾を行うのです。
これまではどの哺乳類でも、オスのペニスをメスの体内に挿入すると考えられていましたが、今回の発見によって哺乳類でも挿入しない交尾が行われていることが明らかになりました。
実際の交尾では、まず逆さまの状態でオスがメスを掴み、完全に勃起したペニスがメスの尾膜を回避して素早く探るような動きをしました。
コウモリの尾膜は後ろ脚と尻尾の間に展開されている膜であり、コウモリたちの飛翔制御に使われています。
ただこの尾膜はメスの生殖器を隠すように展開されており、オスの交尾行動を妨げる防壁としても機能しています。
研究者たちは、オスの巨大化したペニスはこの邪魔な尾膜を物理的にズラすために発達した可能性があると述べています。
これはコウモリのメスたちは尾膜というパンツを履いていると言い換えることができるかもしれません。手を使うことができないオスたちは、このパンツをズラすためにペニスを特殊な形状に進化させる必要があったのでしょう。
またコウモリのペニスの先端は、2つの球が並んだ構造をしており先端に数本の毛が生えていますが、この巨大な先端部と毛はメスの生殖器を探すセンサーとして機能しているとのこと。
観察映像では、オスのペニスがメスの生殖器を探っている最中でも、メスは交尾に伴う鳴き声を上げていることが記録されていました。
これは挿入がなくとも、彼らにとってはこれが正常な交尾行動であることの証拠だと考えられます。
そしてペニスの先端がメスの生殖器に到達すると先端が膣口に押し付けられ、射精が行われるまで位置が保持されました。
挿入できず擦り付けるだけというのは、ずいぶん切ない交尾に感じられますが、これが彼らの繁殖行動のようです。
また観測された映像ではほとんどの交尾が1時間以内に完了しました。(例外的に13時間近くも交尾を続けたケースもみられました)
今回の研究は欧州に住むクビワコウモリコウモリのみが観察の対象となりましたが、研究者たちはメスが同様の尾膜を持つ他のコウモリでも起こる可能性が高く、コウモリにおいては一般的な交尾形態の可能性があると述べています。
コウモリのペニスの形態は極めて多彩であり、他にも知られていない奇妙な交尾形態が存在するかもしれません。
一部Eptesicus serotinusをホオヒゲコウモリとしていましたが正しくはクビワコウモリ属になります。ここに訂正して再送しております。