「ネットで性的画像」を蔓延させているのは意外にも所得格差だった
「ネットで性的画像」を蔓延させているのは意外にも所得格差だった / Credit:Canva . 川勝康弘
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「ネットで性的画像」を蔓延させているのは意外にも所得格差だった

2025.01.08 17:00:37 Wednesday

「戦略としての性」の実態に迫ります。

近年SNS上で性的な画像が急増する背景には、近年深刻化している所得不平等(格差社会)が大きく影響している可能性が指摘されています。

オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)のBlakeらの画期的な研究によって、地域や国家の所得格差が拡大すればするほど女性が自発的に“セクシュアルな画像”を投稿する割合が高まることが示唆され、これまでの「ジェンダー不平等=女性抑圧」という図式では説明しきれないことが示されました。

本コラムでは、SNSにおける女性の競争行動やインフルエンサー文化、さらに進化心理学や社会学の知見を交えながら、「所得不平等がなぜ女性の性的自己表現を促すのか」を多角的に検証します。

SNSの投稿傾向だけでなく、美容サロン利用や外見投資に関わる実証研究など、最新の学術エビデンスを豊富に引用しながら、“なぜ格差社会でセクシュアライズされたコンテンツが増えるのか”という疑問に迫ります。

格差時代だからこそ見えてくる女性のリアルな競争戦略と、その背景に潜む社会・文化的要因を読み解くことで、私たちの日常や価値観をアップデートするヒントが得られるはずです。

ジェンダーだけでなく所得格差にも着目した、まさに現代を映し出す本テーマを、徹底解説していきましょう。

Income inequality not gender inequality positively covaries with female sexualization on social media https://doi.org/10.1073/pnas.1717959115 Objectification Theory: Toward Understanding Women’s Lived Experiences and Mental Health Risks https://doi.org/10.1111/j.1471-6402.1997.tb00108.x The Spirit Level: Why Greater Equality Makes Societies Stronger https://www.amazon.co.jp/Spirit-Level-Equality-Societies-Stronger/dp/1608193411 Falling Behind: How Rising Inequality Harms the Middle Class (Wildavsky Forum Series) (Volume 4) https://www.amazon.com/Falling-Behind-Rising-Inequality-Wildavsky/dp/0520280520 Sexual Selection in Males and Females https://doi.org/10.1126/science.1133311 “They Are Happier and Having Better Lives than I Am”: The Impact of Using Facebook on Perceptions of Others’ Lives https://doi.org/10.1089/cyber.2011.0324

「女性蔑視=性的画像」の公式を疑え

「女性蔑視=性的画像」の公式を疑え
「女性蔑視=性的画像」の公式を疑え / Credit:Canva . 川勝康弘

ソーシャルメディアの普及に伴い、女性が自らの身体的魅力を強調する画像──いわゆる「性的なセルフィー(自撮り写真)」や性的自己表現を含む写真──が、私たちの目に日常的に触れるようになりました。

こうした傾向をめぐっては、社会心理学やジェンダー研究の分野で「女性が男性社会の視線に応えねばならない構造がある」あるいは「女性自身が内面化した抑圧によって自らを性的にアピールしている」といった解釈が長らくなされてきました。

しかし近年、「ジェンダー不平等だけが原因とは限らない」という新たな知見が注目を集めています。

とりわけ2018年に発表されたBlakeら(PNAS)の大規模研究では、「所得不平等(経済格差)の大きい地域ほど、SNS上で性的なセルフィーを投稿する女性の割合が高い」という結果が示されました。

これは、従来の「ジェンダー不平等=女性抑圧」や「女性蔑視=性的画像」という単純な図式から一歩踏み出し、経済格差が女性同士の競争意識や社会的地位の争奪戦を加速させる可能性を浮き彫りにしたのです。

本コラムの目的は、決して低俗な女性叩きをすることではありません。

むしろ、「ジェンダー不平等ではなく所得不平等が、女性の性的自己表現を増やす要因になり得る」という議論を、Blakeらの研究や関連する学術文献を通じて検討することにあります。

なぜジェンダー不平等だけでなく、経済格差という要素が女性の行動に大きな影響を及ぼすのか──。

この疑問に対しては、女性の「主体的な自己表現」と「競争戦略」という視点を重ね合わせることで、新たな社会の捉え方を提示できると考えています。

さらに本コラムでは、進化心理学や動物行動学の観点にも目を向け、競争が激化する環境下で雌(女性)がどのように自身の魅力をアピールし合うのかを広い視野で論じます。

加えて、SNS上のセクシュアライズされた投稿だけでなく、美容サロンの利用やファッションへの出費など「実社会での外見強調行動」にも着目し、女性が身体的魅力に投資する背景を総合的に捉えることを試みます。

女性の性的自己表現は、ジェンダー研究やメディア研究において早くから議論されてきたテーマではありますが、SNS時代を迎えて一段と新しい側面が加わりました。

近年、SNS利用の拡大によって個人が外見やライフスタイルを世界規模で発信しやすくなった一方、このような自己表現がどのような社会的要因によって増幅されるのかは、まだ十分に解明されていません。

Blakeらが注目した「所得不平等」という視点は、これまでの「ジェンダー不平等=女性の抑圧」では説明しきれなかった点を補う、非常に興味深い切り口です。

社会心理学、経済学、進化生物学などの学際的研究では、経済格差が「個人間の競争」を強めることを示唆するデータが数多く蓄積されています。

女性のセクシュアライズされた自己表現を、男性からの一方的なオブジェクト化(客体化)として捉えるだけでなく、女性自身が主体的に戦略として選択している可能性がある──本コラムでは、こうした先行研究の示唆を踏まえながら、今後の研究や社会への含意を探っていきたいと思います。

次ページ科学が「女性の抑圧」を疑い始めている:一元的抑圧論の衰退

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