「ネットで性的画像」を蔓延させているのは意外にも所得格差だった
「ネットで性的画像」を蔓延させているのは意外にも所得格差だった / Credit:Canva . 川勝康弘
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「ネットで性的画像」を蔓延させているのは意外にも所得格差だった (5/5)

2025.01.08 17:00:37 Wednesday

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まとめ:SNS時代の女性は「戦略的」に脱ぐ

SNS時代の女性は「戦略的」に脱ぐ
SNS時代の女性は「戦略的」に脱ぐ / Credit:Canva . 川勝康弘

戦略としての性

これまで女性の性的自己表現はメディアで頻繁に取り上げられ、その背景として「ジェンダー不平等」という言葉がしばしば使われてきました。

たとえば、男性優位の文化や差別構造が女性に性的なアピールを強いている、あるいは女性が内面化した抑圧を反映している、といった議論です。

しかしBlakeらの研究および関連文献からは、ジェンダー不平等だけでは説明しきれない複雑な実態が浮き彫りになりました。

ここで注目されるのが「所得不平等」という視点です。格差社会では、相対的地位や競争がより苛烈になる可能性があります。

男性は経済力で地位を示しやすい一方、女性は外見や魅力を“資本”として活用する場合があり、それがSNS上で顕著に表れる──この仮説は、単純な「女性の被抑圧」像だけでなく、「女性が能動的に競争を戦略化する」面も示唆しています。

SNSで活躍するインフルエンサーやモデル、あるいはビジネス面で成功を収めている女性たちは、まさに自らの外見的魅力や個性を“ブランディング戦略”として活用することで、社会的・経済的リターンを得ています。

もちろん、これを「まったく抑圧的要素のない自由な選択」と言い切るのは難しいでしょう。文化的な性役割や美の基準が内面化されている可能性を否定することはできません。

しかしながら、ブランディングの視点を導入すれば「抑圧されているか、それとも主体的なのか」という二元論にとどまらない、より複雑でダイナミックな女性像が見えてきます。

所得格差が激しい環境においては、その“主体的”とされる行動が、より一層強化されるインセンティブをもつというわけです。

ジェンダー不平等は歴史的・制度的に根強い問題であり、今なお世界各地で顕在化しています。しかしBlakeらの研究が指摘するのは、「ジェンダー不平等が小さくなっても、所得不平等が大きい環境ならば、女性の性的自己表現はむしろ増えるケースがある」という逆説的な現象です。

これはジェンダー研究やフェミニズムの中でも意見が分かれるトピックであり、「女性のパワー獲得」と「男性支配構造」それぞれの側面を同時に扱うための新たな論点を提供しています。

格差問題としての性

女性の性的自己表現が増えることを否定的に捉える人もいれば、「自己決定権の行使」として肯定する人もいます。フェミニズムの内部でも意見が分かれるテーマですが、本コラムが提起したのは、少なくとも「男性支配構造を打破すれば性的自己表現が消えるか」というと、必ずしもそうではない可能性があるという点です。

むしろ、格差社会の中で女性が競争を強いられる構造そのものを是正しない限り、性的イメージが蔓延する状況は変わらないかもしれません。

つまり、いくら女性の社会進出や法的権利を拡充しても、所得格差が抜本的に解消されない限り、外見競争や性的自己演出がむしろ加速するというパラドックスが存在し得るのです。

社会政策の面からも、ジェンダー平等だけでなく所得再分配や格差緩和といった取り組みが一体となっていく必要があるでしょう。

女性の性的自己表現という一見きらびやかなテーマの背後には、不安や競争心、あるいは上昇志向といったきわめて人間的な欲求がうごめいています。

私たちがメディアやSNSで目にする“セクシーな”画像や動画は、決して「女性の抑圧」だけの問題でもなければ「女性の主体的表現」だけの問題でもありません。

それらは格差社会を生きる人々のさまざまな思惑や夢、そして時には焦りまでもが可視化された一つの“鏡”なのです。

格差社会は望ましいか否か──この問いかけは単なる道徳論や政治経済の議論にとどまらず、私たちの日常の行動様式にも深く結びついていると言えるでしょう。

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