テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーを持つ「アマテラス粒子」を検出
2008年から2023年現在に至るまで、アメリカ・ユタ州で、最高エネルギー宇宙線観測実験「テレスコープアレイ実験」が続けられています。
このテレスコープアレイ実験は、ユタ州の砂漠地帯に地表粒子検出器を1.2kmの間隔で507台設置したものであり、700km2の範囲に到来する宇宙線を観測することができます。
非常に高いエネルギーの宇宙線は、地球大気に突入すると、相互作用により、粒子のシャワーとなって広範囲に、ほぼ同時に降り注ぎます。
テレスコープアレイ実験では、複数の検出器によってこの粒子のシャワーを検出し、信号の大きさと僅かな時間差から、宇宙線の到来方向とエネルギーを推定しているのです。
そして2021年5月27日、テレスコープアレイ実験にて、244エクサ電子ボルト(2.4×1020電子ボルト)の宇宙線が検出されました。
これほど高エネルギーの宇宙線がテレスコープアレイ実験で検出されたのは初めてです。
藤井氏ら研究チームは、この宇宙線を日本神話に登場する神の名前から、「アマテラス粒子」と名付けました。
ただ、これが観測史上最大エネルギーの宇宙線というわけではありません。
これまでに観測された中で最も高いエネルギーの宇宙線は、1991年にユタ州ダグウェイ性能試験場で検出された「オーマイゴッド粒子」であり、そのエネルギー量は320エクサ電子ボルトでした。
この度発見されたアマテラス粒子は、オーマイゴッド粒子に次いで高いエネルギーを持っており、「史上2番目に高いエネルギーを持つ宇宙線」と言えそうです。
アマテラス粒子を発見した藤井氏は、次のように述べています。
「この極めて高いエネルギーの宇宙線を初めて見つけたとき、かつてないエネルギーの値が表示されていたため、何かの間違いだろうと思いました」
今回発見された宇宙線は、専門家が目を疑うほどの高いエネルギーを持っていたのです。
では、アマテラス粒子の発生源はいったい何だったのでしょうか?
興味深いことに、この宇宙線が到来した方向には、候補となる有力な天体が見つかりませんでした。
ちなみに、過去最大の宇宙線である「オーマイゴッド粒子」の発生源も不明なままです。
通常、宇宙線は空間を通過する際にエネルギーを失っていくため、これら粒子は、最大1億6000万光年の距離を移動するのが限界だと考えられています。
そのため、地球からこの距離の範囲内に、宇宙線の発生源も存在しているはずです。
しかし、太陽系から1億6000万光年以内には、オーマイゴッド粒子やアマテラス粒子を生じさせるのに十分な天体は、何も見つかっていないのです。
それでも藤井氏は積極的な姿勢を崩しておらず、次のように語っています。
「到来方向に候補天体が見つけられず残念に思うと同時に、ではこの宇宙線はどこから来たのか、という新しい謎が見つかったワクワク感を覚えています」
今後、テレスコープアレイ実験は拡張されていくようです。
もしかしたら将来、更なる宇宙線の検出や分析によって、「未知の天体現象」や「標準理論を超えた新物理起源」が発見されるかもしれません。