電気に関する「教科書レベルの常識」が書き換わりつつある
超伝導実験はしばしば、絶対零度に近い環境で行われます。
多くの人々は、冷やされて霜がついた超伝導体が空中に浮かんでいる様子を見たことがあるでしょう。
超伝導実験で低い温度が使われるのは「金属を熱すると抵抗が増えて電気が流れにくくなる」という性質があるからです。
温度が上がると金属原子の振動が大きくなり、電子が流れるときにぶつかりやすくなってしまうからです。
また温度の上昇に対して抵抗が上昇は、二次関数的であることが知られています。
温度が高くなればなるほど、抵抗が上昇する割合はどんどん大きくなっていくのです。
またこの温度と抵抗の関係も、ランダウの理論で説明することが可能となっています。
しかし1986年に高温超電導体として知られる銅酸化物では、電気抵抗は直線的に増化していくことが発見されました。
「抵抗のあがりかたが二次関数であろうと比例的な直線だろうと問題ないのでは?」と思うかもしれません。
確かに、熱すると抵抗があがるという部分については問題ありません。
しかし直線的な抵抗の増加が正しい場合、教科書レベルの常識と考えられていたランダウの理論が崩壊してしまうのです。
さらに近年になると銅酸化物に加えて、有機的なベックガード塩やズレた状態で重なったグラフェンなど、ランダウの理論に反する直線的な抵抗の増加を示す事例がどんどん報告されるようになってきました。
そのため近年では、ランダウの理論の中心となる電子で構成された「準粒子」が存在しないのではと疑う人々が増えてきました。
さらには電子とはそもそも特定の物体の正体ではなく、単なる物質の1つの相に過ぎないとする考えもあります。
H2Oは「個体の氷・液体の水・気体の水蒸気」と相を変えますが、H2Oという正体を持っています。
しかしH2Oの正体を知らない人がいたら、個体の氷を「ツルツル粒子」「液体の水をゴクゴク粒子」「気体の水蒸気をシューシュー粒子」として、それぞれを特定の物体の正体として理解してしまうでしょう。
同様に私たちが知らない何かがあり、電子はその何かが特定の状態にあるときに、人類が名付けたに過ぎない可能性があります。
この考えが正しければ、液体の水を「ゴクゴク粒子」と名付けてしまった人を、人類は笑えないのです。
しかし銅酸化物をはじめとした金属の中で、何が起きているかは不明となっていました。
答えを得るには、電気が流れている金属の中で電子たちがどのような状態になっているかを測定する必要があります。
そこで今回、ライス大学の研究者たちは金属を「解剖」することにしました。