生殖能力と寿命のトレードオフはヒトにも起きていた
ヒトにおいて「生殖能力と寿命のトレードオフ」は起きているのか?
答えを得るため研究者たちは「UKバイオバンク」に登録されている27万6000人の人々の遺伝子を分析し、子供の数や健康状態、寿命といったパラメータとの相関関係を調査しました。
「UKバイオバンク」には人々の健康状態や生活習慣、寿命、子供の数、コーヒー派か紅茶派かといった食の好みまで多岐にわたるデータが保存されており、現代の遺伝分析において非常な有用な情報資源となっています。
すると、驚くべき事実が判明します。
子供の数をはじめとした生殖能力に関連する遺伝的な特徴(遺伝子変異)を持つ人々では、寿命が有意に短縮されていたのです。
(※分析では特に生殖能力に関連すると考えられる583個の遺伝子が重視されました。また生殖能力の強さは「子供の数」や「初めて子供を作った年齢」「初体験年齢」といった出生率や生殖履歴にかかわるデータで判断されました)
さらに「生殖に影響を与える遺伝子変異」と「生殖に影響を与えない遺伝子変異」の2つが、それぞれ寿命に与える影響についても調べられました。
もしウィリアムズの拮抗的多面発現仮説が間違っているならば、生殖に関係ある変異もそうでない変異も、同じように寿命に影響(伸ばしたり短くしたり)するはずです。
しかし結果は違いました。
生殖に影響を与える変異はランダムに選ばれた変異に比べて、寿命に与える影響が5倍も高くなっていました。
また生殖に影響を与える変異が拮抗的多面発現仮説を反映する可能性に至っては7.5倍に達していました。
この結果は「生殖能力と寿命のトレードオフ」が人間にも存在していることを示しており、生殖能力に優れた人は寿命が短くなる傾向であることを示しています。
しかし、なぜ生殖能力を上げる遺伝子を持つと、短命になるのでしょうか?
競争という意味ならば、生殖能力を上げる変異と、長寿化する変異を両方持っている個体(たとえるならイケメンで長寿)が勝者になる可能性もあるはずです。
にもかかわらず、なぜ両者はセットにならなかったのでしょうか?