木星の縞模様の正体は?
木星を天体望遠鏡で観察すると、その表面に何本も茶褐色の縞模様が平行に並んでいるのが見えます。このような縞模様はどのようにしてできるのでしょうか?
木星はガス惑星なので見えている模様は地表面ではありません。木星の大気の中には、アンモニアの氷や硫化水素アンモニウムでできた雲が浮かんでいます。
この雲によって、太陽の光を強く反射する部分と反射の弱い部分のコントラストができ、それが木星表面の縞模様として見えています。
なお、白っぽい部分は帯、茶色の部分は縞(しま)とよばれています。
木星の自転と大気の流れ
木星独特の縞模様は自転速度が速いことに起因しています。
木星の自転周期は10時間で、地球の約11倍という半径からすると非常に速い自転運動になります。
この自転に伴って東西方向に強い風が吹いています。
大気の流れは地域や緯度によって異なり、そのため木星の表面には複雑な風のパターンが見られます。赤道付近では秒速約100mの西風が吹き、中緯度に進むと西風の地帯と東風の地帯が交互に現れます。
なぜ、このように緯度によって風の向きが異なるのでしょうか?
まずは身近な地球の大気循環について調べてみましょう。地球では赤道で温められた空気が上昇し、北半球では北に向かって流れていきます。
しかし、この南から北に向かう空気の流れは地球の自転によるコリオリの力を受けるため、実際には北東へ向かって吹く風になります。コリオリの力とは回転している環境で運動する物体に働く見かけの力(慣性力)です。
そして、北に移動した上空の空気は冷やされて緯度30度付近で下降し、地表を再び赤道に向かって流れます。
また、北極では上空の空気が冷やされて下降し、地表を南に向かって流れます。南下した空気は温められて緯度65度付近で上昇気流となり再び北極へ戻っていきます。ここでもコリオリの力が働き、南に向かう風は北東の風(北東から南西へ吹く風)、北に向かう風は南西の風(南西から東北に向かう風)になります。
中緯度地域の上空には偏西風という西から東に向かう風が吹いています。緯度30度付近の下降気流は高気圧を形成し、緯度65度付近の上昇気流は低気圧を形成します。地表では気圧の高い方から低い方に向かって空気が流れます。したがって、地表での空気の流れは低緯度から高緯度へ北上する向きです。上空ではこれとは逆に南に向かう気流ができますが、この気流が大きく東に曲げられることによってできるのが偏西風です。
北半球を例に説明しましたが、南半球でも同様です。
木星の場合は、自転が非常に速いためコリオリの力も地球よりも格段に強く、そのために気流が大きく東西に曲げられて帯状の流れを作っていると考えられます。
これらの風のパターンによって、木星の表面には明瞭な縞模様が現れます。縞の部分は温度が高い傾向があります。一方、帯と呼ばれる白い部分は温度が低い地域です。
木星の雲の色
木星の表面には明瞭な縞模様がありますが、これは木星の大気に浮かぶ雲が縞模様として見えています。
木星の雲は地球のように白だけでなく、茶色や赤褐色の雲があります。なぜこのようにさまざまな色に見えるのでしょうか?木星の雲の色の違いは、雲をつくっている物質と温度に関係しています。
木星の「縞」と呼ばれる褐色の部分は固体の微粒子による色だと考えられています。
木星の大気はほとんどが水素とヘリウムですが、わずかにアンモニア、硫化水素、メタンなどのガスが混じっています。アンモニアと硫化水素の化学反応によって硫化水素アンモニウムができます。これと深部から上がってきたリンや硫黄を含む化合物との光化学反応によってできた固体微粒子が着色物質となっているのではないかといわれています。
縞の間の「帯」と呼ばれる白色の部分はアンモニアの氷でできた雲です。
ここは上昇気流がおこっているところです。上昇気流により上層に押し上げられた大気は膨張して温度が下がります。そのため、木星の大気に含まれるアンモニアが凍結して、アンモニアの氷でできた雲ができます。この雲が太陽の光を反射して白く見えるのです。一方、縞の部分では温度が高いためアンモニアは蒸発して他の物質の色が見えています。
木星の巨大な赤い目 大赤斑
木星表面で最も目立つ渦巻模様は「大赤斑」です。
※「だいせきはん」と読みます。かな漢字変換で時折「大赤飯」と変換されることがありますが、大盛のお赤飯ではありません。
大赤斑の大きさは東西26000km、南北14000kmで地球がすっぽりと入ってしまう大きさです。
大赤斑の正体は巨大な嵐
大赤斑の正体は巨大な嵐の渦です。
地球上で巨大な渦巻きと言えば台風を思い浮かべると思いますが、大赤斑は台風のような低気圧ではなく、高気圧性の渦です。
さらに、台風の暴風域が秒速25m以上なのに対して、大赤斑の風速は秒速150m以上と桁違いです。
また、台風は南から北に移動して最後は温帯低気圧に変わり渦巻ではなくなりますが、大赤斑は東西にのみ移動して渦巻の構造を保ち続けています。
大赤斑と白斑
大赤斑がなぜこのような赤色をしているかは未だに完全な解明はされていません。
赤い色の原因となる物質としては、縞の部分と同様にリン化合物や硫黄化合物などが挙げられています。しかし、最近の実験室での研究では、木星大気中のアンモニアと宇宙空間から降ってくるアセチレンから光化学反応によって生成される物質が原因ではないかといわれています。
木星の表面には、白斑とよばれる白い円形の斑点もあります。白斑も大赤斑と同様に高気圧性の嵐でえす。白斑を調べることで、大赤斑の成り立ちを解明する手掛かりが得られるしれません。なぜなら、実際に白斑が合体して赤斑になるという現象が確認されているからです。
1940年代に大赤斑のすぐ南に3つの小さな白い渦が現れました。1998年から2000年にかけて3つの白斑が合体して直径が大赤斑の半分程度の1つの白斑になりました。そして2005年から2006年にかけてだんだん大赤斑に似た色調に変化していきました。これは、下層大気から吹き上がった物質(アンモニアや水蒸気)の影響によるものと考えられています。
2008年には、その近くにさらに新たな赤斑が現れました。下の画像はその時にハッブル望遠鏡によって撮影されたのものです。画像中心のやや右にあるのが大赤斑、大赤斑と同じ緯度にあるのが新たに表れた赤斑です。3つの白斑が合体してできた赤斑はその下にあります。