原子をフラーレンに入れてカーボンナノチューブに詰め込む
一次元の気体をどうやって作るのか?
ノッティンガム大学の研究者たちが目をつけたのが、カーボンナノチューブとフラーレンでした。
研究ではまず、フラーレンを巧みに操作して希ガス原子として知られるクリプトン(Kr36)を内部に詰め込みました。
先に述べたようにフラーレンは炭素からなる球状構造をしており、内部に他の分子や原子を閉じ込めることが可能です。
今回の研究でフラーレンは、クリプトンを運ぶための籠として機能します。
研究者たちはこのクリプトン入りのフラーレンをカーボンナノチューブに詰め込んで、上の図のように数珠つなぎに配置させました。
(※左側が電子ビームを当てて少しずつフラーレンを融合していく場合、右側が1200℃で熱して一気にフラーレンを融合させる場合です)
実験で使われたカーボンナノチューブの直径が1.4ナノメートルなのに対してフラーレンの直径は0.7ナノメートルとなっています。
次に研究者たちはエネルギーを加えてフラーレンの結合を緩め、フラーレン同士を融合させました。
上の図では電子ビームを当てることでフラーレンの籠がだんだん融合していき、最終的にはカーボンナノチューブの内部に、複数のクリプトンが収められた細長いカプセルが出現する様子が映されています。
類似する細長いカプセルは、1200℃に加熱した時も出現しました。
この融合により、カーボンナノチューブ(とカプセル)の内部に、数珠のように一次元的に配置されたクリプトン原子が生成されました。
このときカプセルの直径が0.7ナノメートルである一方、クリプトン原子の直径(ファンデルワールス直径)はそれぞれ0.4ナノメートルとなっています。
分かりやすく例えるならば、道幅0.7メートルの道路に幅0.4メートルの車が並んでいる様子に近いでしょう。
この場合、内部のクリプトン原子は前後の原子を追い越すことができずに、ある種の渋滞が発生し、一次元的な配置ができあがります。
なお前後には全長の3分の1ほどの遊びが存在するため、前後には動くことができます。
また上記のような手順を経て透過型電子顕微鏡で撮影することで、原子の動きをリアルタイムで追跡することが可能になりました。
希ガス原子がチューブ内部で一次元ガスとして生成されている様子を、リアルタイムで撮影したのは今回の研究が世界初です。
研究者たちは今後、新たに生成された一次元気体の化学的な性質を調査していくとのこと。
グラフェンで見つかった有効質量のない電子のように、驚くべき物性が潜んでいるかもしれません。