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【ナゾロジー×産総研 未解明のナゾに挑む研究者たち】見えない火山内部を推理!まるで探偵「火山研究」 (5/6)

2024.10.02 Wednesday

前ページまるで探偵!研究者が火山灰からわかること

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富士山はまだ若い!火山の一生ってどうなっているの?

―― ここまで噴火した後の火山の調査についてはお話を伺いましたが、噴火前の火山の調査というのも行われているんですよね。

石塚:はい、それが私たちの通常業務です。緊急時だけでなく、平常時から火山の状態を調べています。

例えば富士山も、どの時代にどんな噴火があったのか、どこでどういう噴火をしたのかを解明するために、山全体をフィールドワークして、噴火の痕跡を探しています。

―― 調査の仕方は、火山ごとに違うものなんですか?

石塚:火山や対象によって臨機応変に変えていきます。研究者の関心によっても調査の仕方は変わってきます。

ただ共通しているのは、過去の噴火履歴を丁寧に追っていくことですね。噴火の時期や場所、噴火様式などを特定していく地道な作業が基本にあります。

―― 過去の噴火の歴史を紐解くことで、どんなことがわかるんでしょう? 将来の噴火予測にも役立つのでしょうか。

石塚:まさにその通りです。過去の噴火の記録は、将来の活動を予測する上で欠かせません。

でも研究の原点は「なぜこの山ができたのか」という素朴な疑問なんです。知的好奇心を満たすことが出発点で、それを将来予測につなげていく。

若い頃は予測よりも、山の成り立ちそのものに興味があったんですが、年を重ねるにつれ、火山と社会との関わりを意識するようになりました。防災の重要性を認識し、そのために研究をしているという思いが強くなってきましたね。

―― 火山の状態というと、よく活火山とか休火山、死火山みたいな言葉を聞きますが、これってどういう状態と理解すればいいんですか?

石塚:活火山とか休火山、死火山という言葉は、以前は使われていましたが、今は活火山か、そうでない、という分類になっています。

火山の寿命は数十万年と考えられていて、どの段階にあるのか、どういう活動をしているのかは、火山学の大きなテーマです。

――例えば富士山は活火山って呼ばれますよね。でも私たちから見ると富士山って登山客でごった返していて安全な山に見えます。実際、富士山は火山学者から見るとどういう状態なんでしょうか?

石塚:富士山は、今でも活発な火山の一つに数えられ、常時観測の対象になっています。直近の噴火は江戸時代中期の宝永噴火ですが、それ以降も地震活動などの高まりが観測されることがあります。特に異常は見られないけれど過去に規模の大きな噴火を繰り返し起こしたことも考慮されるので、富士山は重要な位置づけにあるんです。

―― さきほど山の成り立ちに興味があったという話がありましたが、富士山の誕生はいつ頃だったんでしょう?

石塚:最初の噴火は、今からおよそ10万年前と考えられています。山麓の地層から、当時の噴出物が見つかっているんです。

ただ、それ以前の活動についてはよくわかっていません。その後の新しい噴出物に埋積されて、痕跡が見つかりにくいので。

―― そもそも火山はどのようにして生まれるんですか?

石塚:火山は、マグマが地下で溜まり、地表に噴き出すことで形成されます。マグマが上昇してくる通り道ができ、そこから噴火が繰り返されることで、山体が成長していくんです。マグマだまりの状態が、火山の活動に大きく関わってきます。

―― 日本の火山は、これからも新しく誕生する可能性があるんでしょうか。

石塚:十分ありえます。実際、小笠原諸島の西之島では、2013年に噴火が始まり新島が形成されました。その後、溶岩の流出によって島が拡大し、国土が広がっているんです。

日本列島はもともと、こうした火山活動によって作られてきました。大昔の海底火山の噴火が、現在の陸地を形作ったと言えるでしょう。

―― 逆に火山の寿命というのは、どのように捉えられているんですか?

石塚:火山の寿命を特定するのは難しいんです。最初の噴火から、活動が完全に収束するまでを寿命と考えることもできますが、噴火の痕跡は地下深くに埋もれてしまうことが多い。

ただ、最初の爆発的噴火の年代が特定できれば、おおよその寿命は見えてきます。多くの火山の寿命は、数十万年程度と考えられています。

―― こうして聞いていくと火山にも人生というか一生と呼べるものがあるんだなと感じますが、火山の一生っていうのはどんな風になっているんでしょうか?

石塚:火山の一生には、ある時期に「急に成長する」時期があると考えています

誕生から間もない時期は、マグマはあまり地表に噴出されずに活動は低調なのですが、「成長期」になると、短い期間で繰り返しマグマがたくさん出て、山をどんどん高くするようになります。溶岩流、規模の大きなプリニー式噴火(連続的に大量な軽石・火山灰を放出する爆発的噴火)、その爆発的噴火による噴煙中が崩壊して火砕流の流下も起こしたりします、最も活動的な時期です。

成長期には山体崩壊して山を崩すこともあり、崩しても再び成長していったりします。成長期が過ぎていくと、長い期間をかけて噴火の頻度は減っていき、山は侵食が進んでいきます。

もちろん、これは一般論で、火山によって特性は異なります。

―― その考え方では富士山は、今どの段階なんでしょう?

石塚:富士山は、まだ誕生から若く成長期に入ったあたりと考えています。初めての噴火から10万年ほどで、火山の寿命から見れば、まだ若いんです。溶岩流の噴出や山体崩壊を経験しながらも、全体としては成長を続けている。

富士山の美しい山容も「若い」の特徴と言えるでしょう。

――若々しい立派な佇まいが、富士山の美しさの理由というのは興味深いですね。でもまだ「若年期」ということはこれからも激しい噴火が起きる可能性は高いということでしょうか? 富士山の噴火って首都含めた大惨事になりそうなので、どんな影響があるのか恐ろしいですが。

石塚:1707年の富士山の噴火では、横浜で15cm近く、東京でも数cm の火山灰が積もったと言われています。

現在、東京湾周辺には多くの火力発電所がありますので、もし富士山が噴火して同じくらい火山灰が積もれば、大きな影響がでます。火力発電所ではガスタービンを回すために大量の空気を取り入れているため、その空気と一緒に火山灰を吸い込んでしまい、フィルタの目詰まりで空気が取り込めず発電機が停止してしまう可能性が考えられます。

電力会社はこの点を考慮して対策を講じていくと聞いています。

――火山灰が電力インフラにまで影響を及ぼすとは驚きです。

石塚:火山灰が湿っていると、送電線の碍子(がいし)と呼ばれる白くてそろばんみたいな部品間で火山灰がショートを起こし、停電につながることもあります。送電線の碍子は、本来なら絶縁体として機能するように瀬戸物を積み重ねた構造になっていますが、火山灰に含まれるイオンにより導電性が生じ、ショートを引き起こすのです。

送電線の碍子(がいし)。ここに火山灰が積もると電線がショートしてしまう。
送電線の碍子(がいし)。ここに火山灰が積もると電線がショートしてしまう。 / Credit:canva

数mm程度の湿った火山灰でもショートが起きて送電が止まる例が、ニュージーランドや阿蘇で報告されています。

――噴火というと土石流などのインパクトが強かったので、火山灰で停電ってあまり結びつけて考えた事がなかったですが、富士山が噴火した場合、首都圏大停電という事態が考えられるんですね。東京や横浜まで届いたというお話からも、火山灰は影響が及ぶ範囲が広いので、その原理で火山灰の停電が発生したらインフラの復旧がかなり困難になりそうですね。たとえ火山から離れていても決して他人事ではない問題になりそうです。

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