火山学者から見ても美しい富士山の魅力
―― さきほど富士山はまだ若いので美しいというお話が出ましたが、火山の形というのは噴火を繰り返すことでどんどん変わっていくものなんでしょか? 富士山も今とは全然違う姿だったりしたんですか?
石塚:3500年前頃の富士山は現在よりもさらに美しい姿をしていたと考えられています。山頂部にあるような大きめの火口や谷はなく、もっと整った山容だったのではないでしょうか。そして平安時代には頻繁に噴火していました。
実際、富士山の東側を通る街道が噴火で寸断され、ルートを変更したという記録が残されているんです。
――思えば、多くの人が富士山を「美しい」と感じるのは結構不思議ですよね。富士山は火山学者から見ても、特別な山なのでしょうか?
石塚:その通りだと思います。
富士山の美しさは、火山学的にも特別なものだと言えるでしょう。現在のあの美しい姿は、約2万年前の山体崩壊を経て、その後の噴火で作り直されてきた賜物なんです。
なので私たちは、富士山が最も美しい時代の一コマに生きているのかもしれませんね。
―― 今の富士山の美しさは、これまでの火山の活動によるものなのですね。
石塚:まさにその通りです。富士山の風格は、何万年もの噴火の歴史が刻み込まれた結果なんです。山頂部が崩れ、それがまた火山活動で復元される。そのダイナミックな営みの賜物が、現在の優美な山容だと言えるでしょう。
―― 実はオンラインでお話を伺っているとき、石塚さんの背景はずっと富士山なんですよね(笑)。ここまでのお話を聞いていても石塚さんが富士山に非常に魅力を感じている事が伝わります。富士山の調査で、石塚さんが特に注目されていることは何なのでしょうか?
石塚:私が興味を惹かれているのは、噴火様式の変化ですね。富士山は、時代によって噴火のスタイルが大きく変化しているんです。山頂噴火が卓越する時期もあれば、山腹や山麓からの噴火が目立つ時期もある。
その噴火様式が切り替わるメカニズムは、とても興味深いテーマだと思っています。
―― 噴火様式の変化は、どうやって判断できるんですか?
石塚:過去の噴火の痕跡を丹念に調べることで、ある程度はわかってきます。
例えば、山麓のある地点で厚い堆積物が土壌を挟んで何層も重なって、それが山頂に向かって更に厚さが増していけば、山頂噴火が卓越していた証拠になります。
逆に、山腹斜面でたくさんの火口ができていれば、山腹噴火の時期があったことを示唆しています。
また、過去の溶岩流の下にある炭化木の年代を調べれば、噴火の時期も特定できます。こうした地質調査の積み重ねから、富士山の噴火史が少しずつ明らかになってきたんです。
―― 噴火様式が変化する要因は、まだよくわかっていないんですか?
石塚:正直言って、まだ十分な解明には至っていません。マグマの性質や量、地下のマグマ溜まりの状態など、様々な要因が絡んでいると考えられます。ただ、噴火様式の変化を読み解くことは、富士山の特性を知る上で避けて通れないテーマです。
私自身、大学の研究室などと協力しながら、その解明に取り組んでいきたいと考えています。
火山大国である日本は、時に噴火という大災害に苛まれながらも、美しい景観や地熱、豊かな水、それによって得られる農作物など、さまざまな火山の恵みも享受してきました。
日本の象徴である富士山もまた活火山の一つです。
私たちは山々を見るとつい「時を経ても変わらない自然の雄大さ」のようなものを感じてしまいますが、研究者は山の一生に目を向けて、その形成の理由から、火山活動の変化、そしてその終わりを解明しようと試みています。
石塚さん自身、そのすべてはまだ解明できず、未知の問題に取り組み続けています。
それは火山を理解することで未来の災害に対処するという意義もありますが、何よりも研究者自身が火山の魅力に取り憑かれてしまったからとも言えそうです。
富士山も平安時代は形が違ったように、活火山は噴火活動によっていつ形を変えてもおかしくありません。私たちが見て美しいと感じる自然の姿、山の形には科学的にも美しいと呼べる背景があります。
富士山の姿が噴火活動を重ねて奇跡的に今この時代にだけ生み出された景観なのだと考えると、改めてその美しい山容を見るとき、この時代に生きるありがたさを感じられるかもしれません。
日本は火山とともに成り立った大地です。もっと火山について学び、その魅力を理解して伝えていきたいですね。