転落した人が溶けてなくなる泉
イエローストーン国立公園といえばまず挙げられるのが間欠泉と熱水泉ではないでしょうか。
ほぼ定期的に熱水を高く噴き上げる間欠泉「オールド・フェイスフル・ガイザー」や、カラフルに彩られた熱水泉「グランド プリズマティック スプリング」はイエローストーン国立公園のシンボルといってもいい自然景観です。

こうした見どころは指定されたトレイルと呼ばれる遊歩道に従って見て回ることができます。
しかし、このトレイルを外れて熱水泉を見て歩く観光客がいました。2016年11月のことです。
遊歩道を外れて歩いていたのはオレゴン州に住む23歳の男性、コリン・ナサニエル・スコットさんとその妹でした。ふたりは絶景を見るだけでは物足りず、立ち入り禁止区域へ侵入し、入って楽しめる温泉を探していたのです。
ある熱水泉で、スコットさんがお湯の温度を確かめるため水面に手を近づけたところ、誤って泉に転落してしまいました。そして、そのまま亡くなったのです。
救助隊が駆け付けた時、スコットさんは熱水泉の底に沈んでいました。しかしその時は雷雨だったため、救助は翌日に持ち越されました。
そして翌日、救助隊が現場へ戻ると……、遺体は消えていました。
どこかへ流れていったのではありません。一晩で、溶けてなくなってしまったのです。救助はできず、サンダルなどのわずかな遺品が引き上げられただけでした。
熱水泉は地中から溶け出してきた硫酸で 強い酸性だったのです。
小学生の頃、仮面ライダーに出てくるショッカーの秘密基地に濃硫酸のプールがあるという設定を思い出しました。任務に失敗した隊員はこのプールに投げ込まれ、溶かされてしまうという話を読んでゾッとしたのを思い出します。
ゾッとした反面、人が溶けるような液体が本当にあるんだろうか?とも思っていました。でも、あったんですね。
絶景でも野生動物でもワイルドなアメリカが体感できるイエローストーン国立公園はショッカーの秘密基地並に恐ろしい場所でした……。

イエローストーン国立公園の、熱水泉という名のリアル硫酸プールに落ちると、熱水泉の酸度によっては、人体は本当に溶けてなくなってしまうのです。
風光明美で楽しい国立公園にある泉は、落ちたらパンダになるとか性別が変わるとかいうファンタジックなものではありません。体が落ちたら命も落とします。
熱水泉とはただの熱い泉ではないことにも注意が必要だったのです。
そして、熱水というだけに、場所によっては70℃を超えるものもあり、これは「あつ湯」で有名な草津温泉より遥かに熱く、どちらかというと草津温泉なら源泉の湯畑みたいな温度で、お茶を淹れるような温度。とても人が入れるような温度ではありません。
めちゃくちゃ熱い上に強い酸性。これは……危険過ぎます。入れる温泉を探すのはやめましょう。
