観光地でもあり生活道路でもある、火山防災の難しさ
――先ほど雲仙の噴火の話が出ましたが、雲仙が温泉地として有名であるように火山のある場所は温泉やスキー場、登山スポットといった観光要素が強いですよね。
しかし、火山活動が活発化してくると、一時閉鎖などの処置が取られますよね。
こういう危険な地域でありながら、同時に観光地であるという2面性を持つ場所を調査するのは、気を遣う部分もあって難しさがあるように感じますが、こういう部分で研究していく上で大変なことってありますか?
例えば噴火警戒レベルを、どうやって決定するのかって気になっているんですが。
石塚:まず、火山の噴火警戒レベルは気象庁が決めます。
レベル3になると火口周辺が立入禁止になり、レベル4で高齢者等の避難、レベル5で全住民の避難となります。
ただし、実際の避難の指示は自治体の首長が出します。
――では研究者はあくまでデータを集めて示すだけで、避難の判断は行政がするのですね。
石塚:そうです。私たち研究者は、データを基に科学的に噴火の可能性を評価し、気象庁がそれを警戒レベルに反映させます。その後の避難判断は自治体が下すことになります。
観光地としての難しさは、噴火の兆候があれば当然避難が必要になり観光に支障が出ます。
一方で、噴火しなかった場合にいつ解除するかが難しい問題です。地震や山体の膨張など前兆現象があっても、必ずしも噴火に至るとは限らないためです。
有珠山の2000年の例では、数日前から地震が活発になり避難となりましたが、その後地震の回数が減ってきた頃に噴火しました。しかし、その後の噴火の状況を見極めながら、段階的に避難解除が行われました。
このときは、データに基づいて適切に対応できた良い例と言えます。
――確かに、観光面だけでなく、地元住民の生活への影響も大きいですよね。完全に予測できないリスクを抱えながら、どう対応するかは非常に難しい課題だと思います。
例えば産総研でも調査を行っている草津白根山の場合、国道が火口のすぐ近くを通っているので、火山活動が活発化するとすぐに通行止めになるんですよね。
石塚:そうなんです。草津白根山では、火山活動のレベルに応じて、国道に規制が敷かれます。
例えば、火山性地震が増えたり、山体の膨張が観測されたりすると、レベル2に引き上げられて、国道が通行止めになることがあります。
―― レベルの判断は、気象庁がデータに基づいて行っているんですよね。研究者の立場から見ると、レベルの引き上げ基準などについては、どう感じられますか。
石塚:そうですね。気象庁では、過去の事例なども参考にしながら、レベルの基準を設定しています。
ただ、火山活動の評価には、さまざまな不確定要素が伴うので、判断が難しい場合もあるでしょう。観測データ上は活発化しているように見えても、実際の現象としてはそれほど顕著でないケースもありますからね。
規制をかけるタイミングは、社会的な影響も考慮しながら、慎重に見極める必要があると思います。かといって、安全サイドに倒しすぎると、今度は住民生活への支障が大きくなる。そのバランスを取るのは、なかなか難しい課題だと感じています。
―― 火山防災は本当に難しいのですね。
石塚:そうですね。火山の防災対策は、科学的なデータだけでは判断しきれない部分もあります。
火山の専門家と、行政、住民が連携しながら、火山との賢明な付き合い方を模索していく。そういう地道な努力の積み重ねが、火山防災には欠かせないのだと思います。