クジラの数は増えていき、その後は減っていた
こうしたチーズマン氏らの地道な調査活動により、これまで明確ではなかったザトウクジラの頭数について、2002年から2021年までの具体的な変化が明らかになりました。
2002年の個体数は1万6875頭でしたが、2012年には3万3488頭と最高頭数を記録しました。2010年を除き、2002年から2013年までは毎年個体数が増加し続け、平均して毎年5.9%ずつクジラの数が増えていたのです。
ところがその後、2014年から2021年かけては、平均して毎年3.0%ずつクジラの数が減っていました。
今回の結果の注目すべき点2つありは、1つは2013年まではクジラの数が増え続けた一方、その後は減っていたという点です。
この傾向について、研究者たちは2014年から2016年かけて観測された、海水温が急激に上昇する「海洋熱波」の影響を指摘しています。
海洋熱波によって、植物プランクトンが減少することに起因し、その影響が動物プランクトン、魚類へと波及し、結果としてクジラなどの大型の海洋生物にも影響がおよぶ、と論文中にて説明しています。
もう一つの注目すべき点は、 2000年以前と比べると個体数が回復していることです。
捕鯨時代と比べて、クジラの数が回復していることは喜ばしいことです。しかし、私たちは捕鯨が始まる以前の「自然な状態のクジラの頭数」を知らないため、どのぐらいの頭数のクジラが海にいるのが正常か、よくわかっていません。
今回の調査で示されたクジラの頭数が、本来あるべき数に回復しているのか、それを通り越して過剰に増えてしまった状態なのか、まだ科学は答えを出せてはいません。
クジラは海の生態系において高い位置にいるため、その頭数の変化は海の生態系全体に影響を与え、またその変化を反映していると考えることができます。人間も海から多くの食料を得ている生き物です。
そのためクジラの頭数を調査し、正確にその数を把握することは漁業においても重要な情報になるはずです。
クジラは私たちにとって大切な海の変化を教えてくれる存在です。今回の研究体制をこれからも継続させていき、ザトウクジラを調べ続けていくことで、クジラの暮らしを、ひいては海のことをより深く知ることができるでしょう。