ジョギングなど「体を覚醒させる活動」では怒りは鎮まらない
今回のメタ分析では、覚醒を高める活動と覚醒を低下させる活動に焦点を当てて、それが怒りを鎮めるのに役立つか調べました。
覚醒を高める活動には、サンドバッグをたたく、ジョギング、サイクリング、水泳などが含まれます。
覚醒を低下させる活動には、深呼吸、マインドフルネス(ただ目の前のことに集中すること)、瞑想、ヨガ、漸進的筋弛緩法(筋肉に力を入れた直後に弛緩させるリラックス法)などが含まれます。
その結果、覚醒を低下させる活動が、様々な場面で、様々な集団に対して、怒りを鎮めるのに効果的であることを発見しました。
この結果は特定の人だけでなく、あらゆる背景を持つ人に対して当てはまりました。
研究室または現場でも、デジタルプラットフォームまたは対面指導でも、グループまたは一対一でも、大学生または非学生でも、犯罪歴がある人またはない人でも、知的障害のある人またはない人でも、それらの活動は怒りを鎮めるのに役立っていたのです。
情動の二要因理論に基づき、体の覚醒(興奮)を低下させる活動が、怒りの抑制に役立つと示されたのです。
加えてケアビック氏は、怒りの抑制に役立つ方法としては「漸進的筋弛緩法やリラクゼーションを促すヨガなどが効果的だった」と述べています。
漸進的筋弛緩法はストレッチの一種で、例えば肩にグッと力を入れて骨格筋を緊張させた後、力を抜いて肩を落とし脱力させるなどの方法を指します。これはリラックスを促す方法として心理学的にも知られています。
ケアビック氏は今回の結果について、「現代社会では、誰もが多くのストレスを抱えており、それに対処しなければいけません。ストレスに効くのと同じ戦略が、実は怒りにも効くことを示すことは有益です」とその意義を説明しています。
確かに、「ヨガや漸進的筋弛緩法などを身に着けて習慣化すれば、日々のストレスに対処するだけでなく、突発的な怒りに対処できる」というのは、多くの人にとって助けとなる情報です。
対照的に、覚醒を高める活動には、基本的には怒りを軽減する効果がありませんでした。
特にジョギングは怒りを鎮める効果があるどころか、逆に怒りを燃え上がらせる可能性が最も高かったようです。
共同研究者のブッシュマン氏は「興奮を高める特定の身体活動は、心臓の健康には良いかもしれないが、怒りを抑える最良の方法ではないことは確かだ」と述べています。
そして、この「興奮を高めることが怒りの解決策ではない」という発見は、怒りを爆発させることと継続的な攻撃性を関連付けたブッシュマン氏の以前の研究結果(2022年)とも一致しています。
そのため彼は、「怒っている人は感情を発散させたいので、これは本当に戦いだと言えます。私たちの研究によると、感情を爆発させる行為は、実際には攻撃性を高めることになるのです」と続けました。
ただし、身体活動だったとしても、体育の授業や球技は覚醒を低下させる効果があったという。
研究チームは、「身体活動に遊びの要素を取り入れることで、ポジティブな感情を高めたり、ネガティブな感情を打ち消したりする可能性がある」と考えています。
脳は意外と単純な面があり、体の興奮がどういった感情で起きているのか上手く理解できていません。そのため、競技性のある運動ならば怒りの感情が別の感情として再解釈されたり上書きされてしまうのかもしれません。
今回の研究によって、「ジョギングなど、一人で黙々と行う運動で怒りを鎮めようとするのは間違い」であることが示されました。
しかし運動の代わりに怒りを鎮めるための方法は、別に難しいことではありません。
それこそ、深呼吸やヨガ、漸進的筋弛緩法は、YouTubeなどどこでも解説されていて簡単に実践できます。
もしあなたが次に強い怒りを感じた時には、物に当たるのでも、ジョギングするのでもなく、体をリラックスさせるよう意識してみてください。