「情動の二要因理論」に基づくメタ分析
強い怒りを感じると、「何かに怒りをぶつけたい」という衝動に駆られるものです。
壁や机を殴ったり、物を地面にたたきつけたり、最悪のケースとして人に攻撃を加えたりしたくなるかもしれません。
実際一部の人たちは、「物に当たることで怒りに対処すること」を推奨しています。
しかし、そのような方法は逆に「怒りを燃え上がらせている」ようにも見えます。「体を覚醒(興奮)させ、怒りを表現する」という方法で、怒りは本当に鎮まるのでしょうか。
この点を明らかにするため、ブッシュマン氏ら研究チームは、性別、人種、年齢、文化の異なる1万189人の参加者を対象とした154件の研究に基づく、メタ分析を行いました。
メタ分析とは、過去に行われた複数の研究結果を統合し、より信頼性の高い傾向を抽出する手法のことです。
そして今回のメタ分析は、「情動の二要因理論」に基づいて行われました。
この「情動の二要因理論」とは、1960年代に心理学者のスタンレー・シャクター氏と、ジェローム・シンガー氏によって提唱されたもので、「情動は、身体反応による生理的覚醒と、認知的解釈(ラベリング)の相互作用で生じる」という理論です。
この理論を実証するため、研究では次のような実験が行われています。
参加者は、それぞれ3つのグループに分けられ、実験後に怒りをどれくらい感じたか評価しました。
①ビタミン剤と称してアドレナリンを注射
②ビタミン剤と称して生理食塩水を注射
③アドレナリンの注射後、「注射によって生理的な興奮が生じる」ので注意するようきちんと説明される
その結果、②③に比べて、①のグループで怒りの情動が高く見られました。
①のグループは、アドレナリンによる興奮(生理的覚醒)を注射によるものだと考えることができず、看護師の失礼な態度によるものだととらえ(認知的解釈)、怒りを感じたのです。
60年代の研究だけあって、現代で実践したらいささか問題のありそうな実験ですが、ここからは体が覚醒していると、脳はその反応に対して「怒り」という情動のラベルを貼り付けてしまうことがわかります。
この仕組みを「情動の二要因理論」といい、恐怖のドキドキを恋愛のドキドキに錯覚する「吊り橋効果」もこれに該当します。
そしてこの理論からすると、情動(怒り)を鎮めるためには、体の覚醒を鎮める必要があると考えられます。
ブッシュマン氏ら研究チームは、この観点でメタ分析に取り組みました。