歩く速さが注目される理由
歩くことは、健康のための最も手軽な運動のひとつとして知られています。通勤や買い物、犬の散歩など、日常生活の中で自然と取り入れられている人も多いでしょう。
これまでの研究でも、定期的なウォーキングは心臓病や糖尿病、さらには早死のリスクを減らすことがわかっていました。
しかし、従来の多くの調査は「歩数」や「歩く合計時間」に注目しており、「歩く速さ」についてはあまり詳しく調べられていませんでした。
そこで、ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)医学部のウェイ・ジェン(Wei Zheng)教授らの研究チームは、米国南東部12州に住む約8万人を対象に、大規模で長期的な追跡調査を行いました。
この研究は「サザン・コミュニティ・コホート研究(Southern Community Cohort Study)」と呼ばれるプロジェクトの一部で、2002年から2009年にかけて参加者を募集しました。
調査では、登録時に日々の「速歩き(fast walking)」と「遅歩き(slow walking)」の時間を自己申告してもらいました。
速歩きとは、息が少し弾む程度の早さで歩くことや階段の昇降、軽い運動などを含みます。遅歩きは、犬の散歩や仕事中の移動、買い物など、ゆったりとしたペースでの歩行を指します。

また、喫煙習慣、飲酒量、食生活、座っている時間、肥満度(BMI:Body Mass Index)、既往歴など、死亡リスクに関わる生活習慣や健康状態についても詳細に記録しました。
その後、2022年12月末まで追跡を行い、全米死亡インデックス(National Death Index)と照合して、全死亡および死因別の死亡リスクとの関連を分析しました。統計分析では年齢や性別、収入、生活習慣など多くの要因を調整し、「歩く速さ」と「死亡リスク」の関係をできるだけ正確に評価しました。
このように、今回の研究は単に「歩くことが健康に良いか」ではなく、「どのくらいの速さで歩けば効果があるのか」を、大規模に検証したのです。