非言語コミュニケーションである表情を改良し、「不気味の谷」を越えられるか
人間に限りなく近いロボットを開発することは、科学者たちが目指す夢の1つです。
コミュニケーションの分野においては、最近、ChatGPT のような大規模言語モデルによって目覚ましい進歩を遂げています。
それらが導入されたロボットに話しかけるなら、まるで人間のようにバリエーション豊かな返答が得られるのです。
しかし、そのコミュニケーションは言語に限ります。
言語を用いないコミュニケーション、特に「表情」の分野では、ロボットたちはまだまだ人間から遠く離れているのです。
もちろん、表情豊かなロボットはこれまでにも開発されてきました。
それらのロボットたちは、歯を見せて笑ったり、眉間にしわを寄せて怒ったりするなど、人間にかなり近い表情を見せてくれます。
それでも、「不気味の谷」を越えることはできていません。
不気味の谷現象とは、ロボットの外見や動きが高いレベルで人間に類似する時に、人々が抱く「恐怖感」「嫌悪感」「薄気味悪さ」のことです。
通常、人々は人間のような性質を持ったロボットに好感を抱くものです。
そして外見や動作がどんどん人間に近づくにつれて、その好感度も高まっていきます。
しかし、ある段階で、その好感度は急激に下がります。
ロボットが非常に高いレベルで人間に類似すると、人々は好感を抱くどころか、強い違和感や嫌悪感を抱くようになるのです。
それでも、私たちが本物の人間の表情や動作に「温かみ」や「愛情」「親近感」を感じるように、人間に極限まで近づいたロボットに対しては再び好感を抱くようになると考えらえます。
現在、人型ロボットの外見や動作は、この「不気味の谷現象」が生じるところまで人間に近づいていますが、これを越えることはできておらず、科学者たちの課題だと言えます。
これは人間に近いロボットを作ろうとした場合の有名な問題ですが、ロボットが表情を使ったコミュニケーションをする際には、もう一つ技術者にとって大きな課題が存在します。
それが相手の表情に合わせて、自分も表情を作る際の反応速度の問題です。この反応速度が僅かでも遅いと、人間はコミュニケーションの取りづらさを感じたり、相手を不気味に感じてしまうのです。
今回、ユハン・フー氏ら研究チームの開発したロボットは、「ロボットの反応を人間レベルにまで近づけるもの」であり、もしかしたらこの課題のクリアに役立つ可能性があるのです。