キノコの「菌糸体」から「動物の革の代替品」を作ることに成功
近年、動物の革を用いることに対して倫理的な懸念を抱く人々が増えてきました。
一方、一般的な革の代替品は、石油由来のポリマーから作られていますが、こちらは環境に優しくありません。
そのため、消費者やファッション業界は、動物を犠牲にしないだけでなく環境にも優しい革の代替品を求めてきました。
以前から注目されてきたのは、キノコを使った代替品です。
しかし、成長スピードが遅く、現在の商業ニーズに対応できるものは、ほとんどありませんでした。
そんな中で、今回、クロフォード氏ら研究チームは、素早く成長・生産できる「菌糸体を用いたキノコ革」の開発に成功しました。
菌糸体とは、菌糸の集合体であり、キノコの下に生えて水分や栄養分を吸収する根のようなものです。
例えば、私たちがよく知る「樹皮の上に出ているシイタケ」は子実体という繁殖のための構造に過ぎず、その本体は幹の中に根のように広がる菌糸なのです。
クロフォード氏ら研究チームは、この菌糸体をマット状に成長させることで、キノコ革を作っています。
今回実験に用いられたのは、健康食品として利用される霊芝(れいし。学名:Ganoderma lucidum)と、素早く成長することで知られるトキイロヒラタケ(学名:Pleurotus djamor)です。
この2つのキノコを、アルミトレイの中の菌床(キノコの菌を栽培するための培地)で21日間成長させ、マット状の素材を作ったのです。
ちなみに菌床には、液体でも固体でもなく、栄養素の吸収を助けるペースト状のものを採用することで、より短期間で分厚い菌糸体のマットを栽培できるようになりました。
そして2つのキノコの革の代替品としての適性を調べたところ、「霊芝」の方が安定した成長とより高い引張強度を示し、商業ニーズに対応できる可能性があると判断されました。
霊芝の代替革の引張強度は、従来の動物革や合成革の引張強度には及びませんが、それでも研究チームは、複数の層を重ねることで素材を強化できると考えています。
また霊芝の代替革は、熱処理やエンボス加工(版で文字や絵柄を浮き彫りにする加工)にも対応しており、革用の染料で染めることもできました。
キノコ革は素早く成長するため、現在の需要を満たすことも十分に可能だと考えられます。
環境や動物に優しい「キノコ革の鞄」が大量生産される時も、そう遠くはないかもしれません。
牛革も余ってるので必要ないのでは?
菌類にも優しくしてあげてよ