若いときから急速減量をすると競技力が高まらない
多くの格闘家が実践している急速減量は、短期的視点と長期的視点のどちらを中心に捉えるかによって、その是非が変わります。
本記事では、その瞬間の勝敗といった短期的視点ではなく、数年後や数十年後といった長期的視点に立って考察していきます。
スロベニア・リュブリャナ大学に所属するエフゲン・ベネディク氏らは、世界ランキング150位以内のエリート柔道家138人を有効回答者としたアンケートをもとに、急速減量の実施状況や競技力との関係を報告しています。
アンケート結果を見ると、96%もの人が急速減量の経験があり、そのうち40%弱の人が16歳になる前には既に実施していました。
そして興味深いことに、競技力を示す世界ランキングの順位と急速減量を始めた年齢との間に関係がありました。
具体的には、16歳未満で、急速減量をしていた柔道家の競技力が低いというものです。
なぜ、若いときから急速減量を取り入れると競技力に悪い影響があるのでしょうか?
ベネディク氏らは、若い頃に急速減量を始めることが健康リスクの観点から不適切だと指摘します。ここでの健康リスクとは、栄養状態の悪化や体力の低下、発育発達の阻害などを指します。
また、リトアニアの格闘家を対象とした別の研究によると、食事を抜く、水分制限、サウナスーツを着て運動をする等の急速減量のテクニックを積極的に活用している人ほど、筋肉量が少ない傾向にあるという結果が得られています。
この結果は、早い段階から急速減量を行うことで、キャリアのピークを迎えた際に高い筋肉量を維持するのが難しくなる可能性を示唆しています。
さらに、筋肉量が少なくなると、脂肪は筋肉に比べて水分をあまり保持できないため、同じ体重を落とす場合でもより苦労するようになります。
これらの背景を踏まえると、若い頃から急速減量に頼り過ぎると、健康面での問題や筋肉量の維持が困難になるなど、健康とハイパフォーマンスを両立する上で悪循環に陥りやすくなると考えられます。