格闘家はサウナスーツを着て急速減量する者も多い

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格闘家に流行る急速減量・水抜きの長期的なリスクを探る

2024.06.20 Thursday

ボクシング、キックボクシング、総合格闘技、柔道、レスリングといった格闘技(Combat sport)の多くは、体重別の階級制度が採用されています。

この理由は、体格が大きく異なる格闘家同士が戦うと、競技の公平性が損なわれるからです。

ただ、実際には、ほとんどの格闘家が計量の前に急激に体重を落とすことで、普段の体重よりも軽い階級で出場しています。

計量前に急激に体重を落とすことは、急速減量と呼ばれており、具体的には、飲食物の摂取をセーブしたり、「水抜き」と称されるサウナや半身浴などで体内の水分を排出したりする行為によって体重を一気に減らします。

このうち、水抜きは、細胞の機能、体温調節といった生命活動に不可欠な役割を果たす水分を失うことに直結するため、過度に行えば、失神や気絶を招くだけでなく、最悪の場合、人の命にも関わります。

そんな危険な要素もある急速減量ですが、最近の研究では長期的な観点からみても、悪影響があることがわかっています。

この記事では、多くの格闘家が当たり前に行う急速減量がアスリートとしてのキャリアや引退後の健康状態に及ぼす影響を見ていきます。

総合格闘技界の水抜き事情から考える健康とハイパフォーマンスの妥協と協力 https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4824
Rapid weight loss among elite-level judo athletes: methods and nutrition in relation to competition performance https://doi.org/10.1080/15502783.2022.2099231 The Association between Rapid Weight Loss and Body Composition in Elite Combat Sports Athletes https://doi.org/10.3390/healthcare10040665 Prevalence of metabolic syndrome and its association with rapid weight loss among former elite combat sports athletes in Serbia https://doi.org/10.1186/s12889-024-17763-z

若いときから急速減量をすると競技力が高まらない

多くの格闘家が実践している急速減量は、短期的視点と長期的視点のどちらを中心に捉えるかによって、その是非が変わります。

本記事では、その瞬間の勝敗といった短期的視点ではなく、数年後や数十年後といった長期的視点に立って考察していきます。

スロベニア・リュブリャナ大学に所属するエフゲン・ベネディク氏らは、世界ランキング150位以内のエリート柔道家138人を有効回答者としたアンケートをもとに、急速減量の実施状況や競技力との関係を報告しています。

アンケート結果を見ると、96%もの人が急速減量の経験があり、そのうち40%弱の人が16歳になる前には既に実施していました。

そして興味深いことに、競技力を示す世界ランキングの順位と急速減量を始めた年齢との間に関係がありました。

具体的には、16歳未満で、急速減量をしていた柔道家の競技力が低いというものです。

なぜ、若いときから急速減量を取り入れると競技力に悪い影響があるのでしょうか?

ベネディク氏らは、若い頃に急速減量を始めることが健康リスクの観点から不適切だと指摘します。ここでの健康リスクとは、栄養状態の悪化や体力の低下、発育発達の阻害などを指します。

また、リトアニアの格闘家を対象とした別の研究によると、食事を抜く、水分制限、サウナスーツを着て運動をする等の急速減量のテクニックを積極的に活用している人ほど、筋肉量が少ない傾向にあるという結果が得られています。

計量前は数食にわたって固形物を一切取らない格闘家もいる
計量前は数食にわたって固形物を一切取らない格闘家もいる / Credit: 写真AC

この結果は、早い段階から急速減量を行うことで、キャリアのピークを迎えた際に高い筋肉量を維持するのが難しくなる可能性を示唆しています。

さらに、筋肉量が少なくなると、脂肪は筋肉に比べて水分をあまり保持できないため、同じ体重を落とす場合でもより苦労するようになります。

これらの背景を踏まえると、若い頃から急速減量に頼り過ぎると、健康面での問題や筋肉量の維持が困難になるなど、健康とハイパフォーマンスを両立する上で悪循環に陥りやすくなると考えられます。

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