philosophy

「自由意志は無い」は本当なのか?

2018.08.15 Wednesday

Point
・神経科学の有名な実験で、自由意志が無いことを示唆する結果がある
・神経科学の自由意志関連の研究の質的な再評価を実施
・研究結果を著者が立場の正当化に利用する傾向があり、分野に渡って矛盾する結果もあるため、自由意志が否定されたとも肯定されたとも言える段階にない

数十年前から、神経科学界には「自由意志は幻想だ」という主張があります。これが本当なら、「人の活動は脳や外部の刺激によって動かされている」ということになります。しかしこういった研究を新たに解析した結果、その多くが方法論的な矛盾や、正反対の結果を含むことがわかりました。

The Impact of a Landmark Neuroscience Study on Free Will: A Qualitative Analysis of Articles Using Libet and Colleagues’ Methods
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/21507740.2018.1425756

このような「すべての動作は脳内のニューロン発火によって決まる」とする結論に異論を唱えるのが、ノースカロライナ州立大学の哲学准教授ベリコ・ドブレビク氏です。

「問題は、訓練中の神経科学者たちが、過去の研究で自由意志の不在を明確に証明したと教えられていることです。そしてさらに指導者たちが、主張を裏付けるために彼らが行い、得られた証拠を注意深く見ていないのです。科学教育において、このような無批判な思考を教えることは、科学的でも無いし、社会的な危険性もあります」

1980年台、アメリカの生理学者ベンジャミン・リベットによって、自由意志に関するパイオニア的な研究が行なわれました。実験に際して、参加者は特別な作業をこなすよう指示され、そのときの脳の活動をリベットが評価。参加者が行動しようと決定する前に、脳に活性が見られたことをリベットは発見しました。後の研究は様々な方法で使われてはいますが、この基本的な発見を繰り返して主張しているわけです。

しかし、これらの研究の最初の質的なレビューで、提示された結果が決定的なものでは「全く無い」ことがわかりました。レビューではリベットの有名な1983年の研究から、2014年に至るまでの48の研究を解析しています。

判明したのは、研究結果に対する解釈が主要著者や連名著者の形而上的な立場によって決まっており、結果そのものの注意深い解析からではなかったということです。基本的に自由意志に反対する人たちの結果は、その立場を支持するために使われ、その逆も見られました。

研究者たちはまた、研究を横断した場合に、結果にバリエーションが多くあることも発見しました。例えば、脳の中でどの領域が活性化するかを見て、それが意思と関係しているかを調べた研究の集合において、矛盾する結果が多く見られました。

「同時に、最も強引な結論を導く論文記事において、当該の神経活動を評価しさえしてないことが多くありました。それが意味するのは彼らの結論が推測を元にしているということです。使われた方法が本当に、なされている主張を支持するのか否かを批判的に調べることは非常に重要です。」

この点が重要なのは、自由意志についての見解を聞かされた人々の行動が、その意見の影響を受ける可能性があるからです。

「多くの研究が、決定論を信じさせることによって、まるで不正をするかのように影響が出ることを示唆しています。自由意志が存在しないとする形而上的な姿勢といった根も葉もない信念を推奨することは、もし人々が自分の行動が決定論に従っていると考えた場合に、自分の行動に責任を感じなくなる傾向を強めるかもしれません。」

この問題は神経科学コミュニティーに限定されたことではありません。ドブレビク氏と共同研究者は以前の研究で、この研究領域の報道のされ方や、公での消費され方に難題が潜んでいることを発見しています。

「誤解のないように言いますが、私たちは自由意志の立場をとっていません。言いたいのは、神経科学が、どちらかを明確に証明してなどいないということです」と、ドブレビク氏は話しました。

https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/13293

via: Neuroscience news/ translated & text by SENPAI

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