「浮き袋」がないので水中を泳げない
アンコウ目に属するレッドハンドフィッシュ(学名:Thymichthys politus)は1844年にオーストラリア・タスマニア沖で発見され、科学的に記載されました。
本種は世界の海の中でタスマニア沖にのみ分布しており、しかもそのうち、50メートル四方の2つの区画(サンゴ礁帯)にしか生息していないのです。
体長は大人でも約10センチほどと非常に小さいです。
餌は小型の甲殻類や海棲ワーム、小さな軟体動物などを食べています。
繁殖期に交尾をすませると、メスは8月〜10月にかけて海草の根元に産卵し、1つの塊につき30〜60個の卵を産みつけます。
それぞれの卵は互いに細い管でつながっており、ふ化するまで親が卵を守ります。
そしてレッドハンドフィッシュの大きな特徴の一つは、あらゆる魚に見られる「浮き袋」がないことです。
魚の体は周囲の海水より密度が大きいので、何もしなければ海底に沈んでしまいます。
そこで浮き袋の中に空気を溜めたり抜いたりすることで、自由自在に体の浮き沈みをコントロールしているのです。
しかしレッドハンドフィッシュには浮き袋がないので、海底に沈みっぱなしの状態で暮らさなければなりません。
そのため、彼らは肉厚の2本の胸ビレを用いて、海底をほふく前進するかのように歩いて移動するのです。
こちらが実際の映像。
本当に魚のヒレには見えず、まるで腕のように使っているのがわかりますね。
ところが不幸にも、この愛らしい生き物はすでに絶滅寸前の危機に瀕しています。
野生個体は生息地である2つの区画に合わせて100匹ほどしか確認されていないのです。
またレッドハンドフィッシュはよちよち歩きしかできず、遠くに移住することができないため、環境破壊や土地開発の影響を受けやすくなっています。
そこで豪タスマニア大学の海洋南極研究所(IMAS)が中心となって、レッドハンドフィッシュの積極的な保護活動を進めています。
同チームの海洋生物学者であるアンドリュー・トロッター (Andrew Trotter) 氏は「冗談ではなく、レッドハンドフィッシュは今や世界で最も希少な魚の一種となっている」と指摘。
「正確な生存数を知るのはとても難しいですが、私たちの知る限り、世界で最も絶滅の危機に瀕している魚種の一つであることに間違いありません」と続けています。
その中でチームは今年1月、オーストラリアを襲った熱波からレッドハンドフィッシュを守るために、一時的に海から取り出すという大胆な保護活動を行いました。