サルは選挙で負けた人の顔をより長く見つめる
選挙ではしばしば非合理な結果に至ります。
たとえば政治や経済について専門的な知識を持つ候補者よりも「顔がいい人」を選んでしまうことがあります。
積み重ねられた研究は、このような非合理な選挙結果が起こる要因として、候補者の持つ「外見」が重要な役割を果たしていることを示しています。
優秀な政治家としての能力を持つ候補者が、外見に敗北してしまうのは、選挙においてある種の「顔採用」のような現象が起きていることを示しています。
候補者の主義主張、能力、実績、清廉などに基づく判断は民主主義を機能させる根幹であり、投票者もそのことはわかっているはずです。
にもかかわらず、なぜこのような非合理が起きてしまうのでしょうか?
人間が愚かだから? それとももっと別の原因があるのでしょうか?
この謎を解明するため、ペンシルバニア大学の研究者たちは、マカクザルを用いて選挙における「外見」の影響力を調べることにしました。
マカクザルなどのサルたちは、地位の高いサルと視線を合わせるのを避ける習性があることが知られています。
人間の世界と同様に目線を合わせ続けることはサルの世界でも喧嘩を売ることになるからです。
そのためサルに対してボスザルの顔写真と自分より地位が低いサルの顔写真を見せると、サルたちは高確率で地位が低いサルの顔写真を見続けます。
そこで研究者たちはサルたちの特性を利用して「投票」を行ってもらうことにしました。
(※サルたちの視線をもとに、視線を向けなかった候補者のほうを勝ち、視線を向けた候補者を負けに選んだことにします)
調査にあたっては過去に米国の知事選、上院選、大統領選に立候補した候補者の顔写真のペアを作成し、サルたちがどちらの顔を長く見つめるかが調べられました。
するとサルたちは2枚の顔写真を目の前にすると、どちらか一方に視線を集中させることが明らかになりました。
たとえば1995年から2008年の間に行われた273回の選挙と候補者の顔写真を使った実験では、サルは54.4%の確率で敗者の顔に多くの視線を向けることが明らかになりました。
さらに激戦区と呼ばれている場所については精度が58.1%に増加することが明らかになりました。
実験に使用されたサルには「支持政党」や「好みの候補者」がいないのは確かです。
そのため研究者たちは「サルたちは純粋に写真に基づいて何かを感知している」と結論しました。
またサルたちの視線の偏りが高ければ高いほど、つまり負け候補者を見る割合が高ければ高いほど、勝者側の得票率が高いことが明らかになりました。
サルたちの視線は選挙の結果だけでなく、票数の差まで予測できたわけです。
興味深いことに、同様の予知能力が、人間の幼児にも備わっていることが示されています。
たとえば2009年に行われた研究では、幼児が当選した候補者を顔だけで当てられる確率が70%に達していることが示されました。
また2007年に行われた大人を使った実験では、候補者について何もしらない大人でも、幼児と同じ70%の精度で当選した候補者を選ぶことが示されました。
もしかしたら、政党や候補者への興味が薄い人々が住む国、または浮動票が多い国では、選挙結果は「顔採用」が蔓延し、政治家の質が落ちるのかもしれません。
研究者たちは「5歳の幼児が大人と同じように投票するということは、私たちの遺伝子の中に意思決定を作用する「何か」が存在しており、その「何か」はおそらくサルと同じである」と述べています。
では、その「何か」の正体はどんなものなので、サルたちは顔写真のどこを判断材料にしていたのでしょうか?