肉の「風味」を決めるメイラード反応
私たちが肉を焼くとき、ただ温度を上げるだけでは肉らしい香りは生まれません。
肉が特有の香ばしい風味を持つためには、アミノ酸や糖が高温で反応し、揮発性の化合物を生成する必要があります。
この現象が「メイラード反応」です。
特に、調理温度が150℃を超えると、肉は本格的な香りを放ち始めます。
アルデヒド類、アルコール類、含硫化合物といった化合物がこの反応で生まれ、それが肉の「うま味」を感じさせる元となります。
培養肉でも、このメイラード反応を再現できれば、従来の肉と同じ風味を実現できると考えられています。
しかし、これまでの培養肉研究では、メイラード反応がうまく再現できないという課題がありました。
培養肉は細胞を使って作られますが、従来の肉に含まれるアミノ酸や脂質の組成が異なるため、風味が不足してしまうのです。
そこで今回の研究では、培養肉に風味を与える新しい「足場」を作成しました。
これは、温度に反応して風味化合物を放出する特殊なゼラチンのハイドロゲルをベースにしています。
この足場には、風味切り替え可能な化合物(SFC:Switchable Flavor Compound )が導入されています。
このSFCは、調理中に風味化合物を放出するよう設計されており、通常の培養段階では風味を保持したまま安定しています。
具体的には、SFCはゼラチンベースのハイドロゲルと結びつき、調理温度に達するとジスルフィド結合が切れ、肉の風味を持つ化合物が一気に放出されます。
この足場を使った培養肉を調理したところ、従来の牛肉と同様のメイラード反応が起こり、牛肉のような香りがしっかりと感じられました。
驚くべきことに、この培養肉は、焼いた牛肉に非常に近い風味を持つことが確認されたのです。