火星の環境下で生育できるバクテリアとは
火星の氷の中で、地球の生物が生き延びる可能性はあるのでしょうか?
興味深いことに、火星の氷層における紫外線の放射条件が、地球の光合成生物に適した環境に近いと考えられています。
火星の表面は、地球の大気によって守られている地球の地表に比べ、紫外線の放射が強いため過酷に見えますが、太陽光が透過する火星の氷の中には地球の微生物が生息可能な「生命居住可能領域」が存在する可能性があるのです。
火星の氷点下で水が凍結しないためには、約-18℃以上の温度と液体の水が必要ですが、火星の氷点下の温度では、自然に溶けることは難しい(気温は-56℃)とされています。
しかし、最近の研究によると、火星の中緯度地域で露出した積雪層には、限られた期間にごく浅い深さで氷が溶け、水が安定して存在する可能性が示されています。
例えば、火星の雪に微量の塵が含まれていると、氷層表面の数センチの深さで溶け出し、水の薄い層が現れるかもしれないのです。
この水は、周囲の雪や塵によって蒸発しにくい状態となり、地球の光合成生物にとっても生存可能な条件に近い環境が整うことになります。
火星における「生命居住可能領域」は、氷に含まれる塵の量や氷の粒子の大きさによって異なります。
さらに、火星表面で一時的に溶けた水が氷層の下に残ることで、液体の水が地表下で一部安定し、微生物が利用できる環境が整う可能性があります。
地球の極地に生息する生物は、放射線が届く浅い地下で生きています。
氷の表面で暗い塵や土が熱を吸収し、氷を溶かすことで小さな「クレバス」が形成され、その内部に水が溜まるのです。
「塵を含む氷」が1年のうちのわずかな期間、地表で溶けているとすれば、地球と同様に、シアノバクテリア、緑藻、菌類などの微生物が、氷に混じった火星の塵から栄養分を摂取し、地表下の好ましい生息環境で、わずかな量の溶けた水を利用できる可能性があります。
これらの生物は極限環境での生存に特化した能力を持ち、短い間でも凍結から脱出して生き延びる術を持っています。
火星でも、地球で見られるような浅い地下生態系が存在する可能性が示されています。
紫外線放射の特定条件に適した深さにある氷は、地球の極地の環境と似た条件を持ち、そこで見られるような微生物、特にシアノバクテリアが生息できる可能性が考えられます。
この層は、表面から数センチから数メートルの範囲で、ロボットや将来の有人ミッションによってアクセス可能な場所となっています。
私たちが、これらの生命体と遭遇するのも、そう遠い未来ではないのかもしれません。