昆虫に感染して「ゾンビ化」させる真菌
真菌(しんきん)とは、キノコ・糸状菌(かび)・酵母を含む生物群の総称です。
「菌」という名前がついているので、よく「細菌と同じ仲間だろう」と思われがちですが、まったく違います。
細菌はDNAなどの遺伝情報が裸のまま細胞内に入っている「原核生物」ですが、真菌は遺伝情報が核に包まれた状態で細胞内にある「真核生物」です。
真核生物は原核生物よりもずっと進化した存在であり、真菌も細菌よりヒトや動物にかなり近い高等生物となっています。
真菌は土、水場、空気など、どこにでも存在しており、そのほとんどは「分解者」として働いています。
植物の枯葉や動物の亡き骸、フンなどの有機物を分解して無機物に還元し、栄養素が再び生態系を循環できるようにしているのです。
そのため、真菌は健康な生態系を維持する上で欠かせない存在となっています。
ところがその一方で、真菌には植物や動物に感染して、病気を引き起こす種も少なくありません。
中でもアリやクモなどの無脊椎動物をターゲットに感染するものが「昆虫病原糸状菌(Entomopathogenic fungus)」です。
彼らは「胞子」と呼ばれる微細な粒子を飛ばして、アリやクモに付着するのを狙います。
ターゲットに付着した胞子はそこから増殖を開始し、宿主の体をどんどん蝕んで、体内の組織を食べていくのです。
さらにそれで終わりではなく、真菌は宿主の体を完全に乗っ取って、普段では取らないような行動をさせます。
真菌は特殊な化学物質を分泌することで昆虫の神経系を制御し、それによって宿主の体を自在に動かすことができるのです。
自分の意思とは関係なくユラユラと動くその姿は、まさしく「ゾンビ」に例えられます。
最初に紹介した謎のクリーチャーも真菌に感染したクモであり、菌が全身を覆うまでに増殖したことで青白い見た目に変化してしまったのです。
そして感染されたクモに意識はすでになく、真菌によって勝手に動かされている状態と見られます。
では、真菌たちはクモをどこに運んでいるのでしょうか?