なぜ「ぶら下がり」を進化させたのか?
コウモリは飛んでいないとき、洞窟の天井や木々、橋の裏側などにぶら下がっていることがほとんど。
睡眠時もその状態で眠りにつきます。
なぜこのような姿勢をとるようになったのでしょうか?
「その理由はコウモリが飛行能力を獲得する過程に由来している」と米イリノイ州コウモリ保護プログラム(Illinois Bat Conservation Program)の生物学者であるタラ・ホホフ氏(Tara Hohoff)は指摘します。
コウモリは私たちと同じ哺乳類であり、今から約5000万年前に進化しました。
「コウモリは地上を歩く哺乳類から飛行する哺乳類へと進化する過程で、ムササビのように滑空することから始めました」とホホフ氏はいいます。
現代のコウモリの祖先は地上から高い木に登り、木と木の間の短い距離を滑空して移動し始めたのです。
この過程でまず、垂直な木を登るための強い四肢が進化しました。そして滑空を繰り返すうちに腕が翼へと進化し、長距離を自力飛行できる唯一の哺乳類となります。
そして重要なポイントは、コウモリが哺乳類であるということです。
同じ飛行能力を持つ鳥類は骨の構造が中空になっています。この構造は軽量化のために進化したものです。
骨の中が空洞で、そこに空気が入ることで、鳥の飛行に必要な軽量化と効率的な酸素供給が可能になりました。
これにより、鳥は空を飛ぶ際に必要なエネルギーを最小限に抑えることが可能ですし、地上からでも上方向に飛び上がることができるようになったのです。
ところがコウモリは他の哺乳類と同じく、中空の骨を持っていないため、飛行中に十分な揚力を得ることができません。
地上から直接飛び立つのは効率が悪いのです。
そこでコウモリたちは最初から高い位置にいて、そこから下方向に落下する形で飛び始めるのがベストとなりました。
落下するときは当然、頭から下に向かいますから、この形を取り続けた結果、ぶら下がり姿勢が彼らのスタンダードになったと考えられています。
とはいえ、逆さまでのぶら下がり姿勢は辛くないのでしょうか?
これに関してコウモリは垂直な樹木を上るための強い筋肉やかぎ爪、腱を進化させているため、難なくぶら下がり姿勢を保つことができます。
コウモリはぶら下がる場所を見つけると、かぎ爪を開いてそれを引っかけ、筋肉や腱を使って固定しておきます。
まるでフックをかけておくようにしっかりとロックされるので、眠っていても外れることはありません。
なので、ぶら下がった状態でも体をリラックスさせることができます。