危機回避のための合体システムから生殖システムが分派した

この研究では、まず「親細胞が何回分裂してどれだけのサイズの娘細胞を作るか」と「娘細胞がどの程度の頻度で融合を起こすか」を同時に進化させる数理モデルを作り上げました。
従来の性の進化モデルを改変し、娘細胞のサイズ(m)と融合率(α)をそれぞれ自由に変化できるよう設定した点が大きな特徴です。
環境の厳しさを表すパラメータ(β)も導入し、「資源が豊富な環境」から「極端に不利な環境」まで幅広く試せるようにしました。
さらに、同じ種が環境ごとに異なる戦略を取り分ける“可塑性”も考慮し、ふだんは融合しないが急に悪化すると一斉に融合を始めるかどうかをシミュレーションできるようにしたのはユニークなアプローチでしょう。
モデルの動きとしては、親細胞が複数回の分裂を経て多数の娘細胞を放出したあと、一定時間だけ娘細胞同士を“融解プール”に入れ、そこで融合が起これば質量の大きな単一細胞として評価される仕組みです。
融合に失敗するリスクや余分なコストも設定しながら、どの程度まで融合率が上がるか、どんな条件で娘細胞が大きくなろうとするかを追跡しました。
すると、資源が豊富な環境下では融合率はほとんどゼロに収束し、一方で環境が厳しくなると融合率が急上昇する結果が得られました。
融合の成功率が低い、あるいはコストが大きめに設定されていても、環境が十分に過酷なら合体戦略が圧倒的に有利になるパターンも確認されています。
さらに環境が交互に変動する場合では、ふだんは融合しなくても、状況が悪化すると一気に融合率を高める“条件付き戦略”が生じるシミュレーション結果も得られ、実際の単細胞生物の性誘導メカニズムとよく合致することが示唆されました。