単細胞たちは危機に陥ると合体する

多くの単細胞生物は資源が豊富なときは単純に細胞分裂を繰り返すだけなのに、環境が飢餓状態や栄養不足などで厳しくなると細胞同士が融合し、大きく頑丈な構造をつくり上げることがあります。
たとえば緑藻クラミドモナスでは、窒素源が乏しくなると“性”のスイッチが入り、細胞が融合して“休眠用の丈夫な構造”を形成する現象がよく知られています。
しかし、性の進化を説明する主な説は「遺伝子組換えによる多様性の獲得」が中心で、「どうして細胞同士が合体する必要があったのか」という問題はあまり深く追究されてきませんでした。
実は、細胞が融合すれば単に“体積が大きくなる”ことで厳しい環境をしのぎやすくなるのではないかと考えられています。
生物学者トーマス・キャバリエ=スミスも「合体して大きくなることでより多くの栄養を蓄積し、生き延びられるようになる」ことが性の起源になった可能性を指摘しました。
こうした仮説は、クラミドモナスや酵母などが飢餓時に融合を誘導する事実とも合致しますが、同時に融合による失敗リスクもあるため、実際どれほどメリットが上回るのかは定かではありません。
そこで今回研究者たちは、あえて遺伝子組換えの有利さを度外視して、「体積が増すこと自体で生存率がどれほど上昇し、細胞融合を進化させるのか」を数理モデルで検証することにしたのです。