「義務ックス」のコストと利益を科学的に解明

望まないものの同意するセックスは人間にどのような影響を与えるのか?
謎を解明するため研究チームはフィンランドの18~50歳の男女を無作為に抽出し、大規模な全国調査を行いました。
公的データベースから招待状を送付し、その結果948名(男性449名、女性499名)がパートナーとの最近の性経験に関する詳細なアンケートに回答しています。
参加者の平均年齢は34歳、交際期間は平均約9年でした。
ここで特筆すべきは、「望まないがパートナーのためにセックスに応じたことが1回のみ」と答えた人が約3%、「数回(a handful)」が約31%、「数十回(a few dozen)」が約28%、「100回以上」が約38%という分布が明らかになった点です。
つまり「望まない同意」は、単発ではなく繰り返し起こりうる行動であることが改めて示唆されました。
調査では、「望まない同意」によるポジティブ・ネガティブの結果を評価する尺度に加え、性行為へのアプローチ動機・回避動機、パートナーとの性的コミュニケーションや信頼感、性的自己効力感や性的自尊心、性に関する不安やストレス(性的苦痛)、性的自己主張の強さ、さらにパートナーによる性的強要経験の有無などを幅広く測定しました。
結果として、男女間でいくつか傾向の違いが確認されています。
男性は女性よりも、性的自己効力感や性的自尊心が平均して高く、さらにアプローチ動機も強い傾向があり、加えて「望まない同意」であってもポジティブな結果をより感じやすいというデータが得られました。
一方、女性はパートナーからの性的強要を経験した割合が高く、不安型愛着や抑うつ・不安症状のスコアも高かったためか、「望まない同意」に対してより強いネガティブ感情を抱く傾向が示唆されました。
特に、セックスそのものが苦痛であったり、心理的圧力を感じていたりする場合、「望まない同意」はネガティブな結果を引き起こしやすいと報告されています。
実際、本研究では「過去1ヶ月間にパートナーにセックスを強要されたと感じた回数」と「性的苦痛(セックスに対する悩みやストレスの度合い)」の二つの要因が、望まないセックス後の嫌悪感や後悔、不安などを強く予測していました。
女性については、「断ると関係が悪化しそうで怖い」といった回避的な動機で応じるほど、後味の悪さや虚しさが増す傾向もみられています。
男性においては、パートナーへの信頼感が低いほど、「望まない同意」に伴う心理的マイナス影響が大きくなることが示されました。
こうした不本意な性交渉を何度も繰り返すと、当座は関係維持に役立ったように見えても、長期的にはセックスへの満足感や心の健康を損ないかねないと警告されています。
積み重なった不満が原因で、パートナーへのわだかまりや燃え尽き状態を招く可能性があるためです。
一方、「最初はそれほど欲求がなくても、パートナーに愛情を示したい」「関係を深めたい」といった前向きな理由(アプローチ動機)で同意した場合は、むしろプラスの効果を得るケースもあります。
今回の研究でも、相手との絆を深めたい・相手を喜ばせたいといった気持ちが動機となっている人ほど、「応じてみて良かった」「2人の関係が良好になった」といったポジティブな結果を得やすいことが分かりました。
量的調査のため直接的なコメントは掲載されていませんが、先行研究からは「相手が満足してくれると自分も嬉しい」「結果的に良い雰囲気になった」などのプラス面を感じる人も一定数いると推測されます。