図形と数列で5次方程式の解を作る

新しいアプローチのキーポイントは、「組み合わせの数を数える特殊な数列」を活用することです。
まず、たとえば「カタラン数」と呼ばれる有名な数列があります。
これは大きな多角形を何本かの線で三角形に切り分けるときに、その線が交わらないようにする方法がいくつあるかを数え上げるものです。
実はこのカタラン数には2次方程式(高校数学で習う)との間に深いつながりがあることがわかっています。
論文著者であるワイルドバーガー教授によれば、「カタラン数は2次方程式と密接に関係しているので、5次以上を扱うにはもっと進化した“カタラン数の仲間”を探す必要がある」というわけです。
教授らはさらに発想を広げ、三角形だけでなく四角形や五角形などを含む形で多角形を分割する場合の数を表す「ハイパーカタラン数」を定義しました。
これは、三角形のときのカタラン数をより大きく一般化したものと考えていただくとイメージしやすいです。
そして、このハイパーカタラン数を“生成級数”という形で整理すると、いろいろな多項式方程式を解く手がかりが出てくるのです。
この整理のしかたを拡張すると、2次や3次だけでなく、どんな次数の方程式についても同じように対応できるようになる、というのが今回の狙いです。
ある意味で「小さな計算を積み重ねていくことで、大きな答えに近づく」というイメージです。
たとえば円周率の近似を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。
私たちは円周率を精密に知りたければ、「3.1」「3.14」「3.1415」…というふうに、桁数を増やすたびに精度が高まります。
無限に桁を増やし続ければ、理論上は円周率の正確な値にたどり着くのと同じです。
今回の方法は、この“桁を増やす”というイメージを、多項式方程式の解を見つける作業に応用していると考えてください。
そして「積み上げる項数を増やせば増やすほど、解がより正確になる」という仕組みを理論的に保証できれば、次数が2だろうと5だろうと、最終的には正しい解に近づけるはずだというわけです。
たとえば一般的な産業用途では、およそ小数点以下5桁から6桁程度の精度があれば十分とされるケースが多いようです。
さらに先端的な精密機器や科学実験の世界に行くと、小数点以下10桁以上の精度を要求されることもしばしばあります。
こうした現場の“必要精度”は、実際に機械や実験がどの程度の誤差を許容できるかによって変動しますが、少なくとも「少数の数桁をきちんと合わせる」ことはほとんどの実用分野で不可欠といえます。
このような数桁から10桁クラスの精度なら、今回紹介した“無限級数を使った解法”でも、足す項数を少し増やすだけで十分に得られる可能性があります。
さらにこの過程からは、これまで知られていなかった「ジオード(Geode)」という新しい配列も見つかりました。
多角形を区切った面を数えるように項を積み上げていくと、大きな級数が不思議な形で“因数分解”されるのですが、その因数分解先が「ジオード配列」という、カタラン数をさらに下支えするような構造になっていたのです。
ワイルドバーガー教授は「ジオード配列はまったく新しい発見で、カタラン数を一段と拡張したようなものだ」と話し、これから数多くの新たな課題が生まれるだろうと期待を寄せています。
実際、ワイルドバーガーは今回の級数解法を使って式を十分な項まで計算(切り上げ)し、既知の例で正しい数値解が得られることを確かめています。
例えば、17世紀の数学者ジョン・ウォリスが示した有名な3次方程式でこの方法を試したところ、解が見事に導けたと報告されています。
研究者たちは「5次方程式(クインティック)ですら解が得られる」とも述べており、これまで「不可能」と見なされてきた領域にも新たな光が差し込んでいることがうかがえます。