心理的な距離が近すぎる「エンメッシュメント」とは何か?
「エンメッシュメント(enmeshment)」とは、特定の人間関係において心理的な境界が曖昧になり、お互いの感情やニーズが過剰に交錯してしまう状態を指します。
家族、夫婦、恋人、友人、職場の上司部下など、さまざまな関係においても見られる現象です。
特に親子間では、親が子どもに対して自分の感情的ニーズを満たそうと過度に関与し、子どもがその役割を担うというかたちで現れます。
その中には、子どもが親の期待や気持ちを過剰に察して“いい子”を演じるようになる場合もあります。
さらに、親が子どもの選択に過剰に干渉し、子どもが自由を感じられなくなることもあります。

たとえば、ある親は「あなたは私のすべて」「あなたなしでは生きていけない」といった言葉を繰り返し伝えます。
そのような家庭では、子どもは次第に自分のニーズや感情を後回しにして“親の心の世話役”を引き受けるようになるのです。
このような親子関係は、一見すると仲の良い家族のようにも見えます。
ですが、実際には子どもの心理的自立を阻み、自我の形成を遅らせる可能性が高いのです。
エンメッシュメントは、明確な虐待行為ではないため見過ごされがちです。
しかし、「親の気分を害さないようにいつも顔色をうかがっている」「自分の進路や趣味を親に合わせて選んでしまう」といった経験がある人は、知らず知らずのうちにこの状態に巻き込まれている可能性があります。
では、なぜこのような関係が生まれてしまうのでしょうか?
ラザフォード氏によれば、多くの親は意図的にではなく、無意識にこのような関係性を築いてしまいます。
親自身が感情的な満たされない状態や孤独、自己価値の低さに苦しんでいるとき、その空白を子どもによって埋めようとすることがあるのです。
「あなたがそばにいてくれれば私は安心」「あなただけが私の希望」といった言葉の裏には、親自身が大人として処理すべき感情を子どもに託してしまう構造があります。
子どもにとって親は世界の中心であり、その親が喜ぶなら、どんな自分でも演じようとします。
その結果、子どもは「親を支える存在」であることを無意識に刷り込まれ、自分の本当の感情や欲求を押し殺してしまうでしょう。
では、そんな親の元で育った子供には、具体的にどんな影響が及ぶのでしょうか。